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特定保健指導のデータ分析

実施率の集計からグラフ化、第4期の評価指標の作り方まで

特定保健指導 データ分析 保健事業

「特定保健指導の実績を理事会で報告したいが、どの数字をどう集計してグラフにすればよいのかわからない」——健康保険組合や自治体の担当者から、このような相談をよく受けます。委託先から届く実績データをそのまま並べても、自組織の指導がうまく回っているのか、どこに手を入れるべきなのかは見えてきません。

結論から言うと、毎年の分析は次の3層に分けて集計すると整理しやすくなります。

  1. 実施率:国への実績報告と同じ定義(分母・分子)で計算し、全国・保険者種別の実績や第4期の目標値と比べる
  2. 第4期のアウトカム:腹囲2cm・体重2kg減の達成割合、行動変容の改善割合など、2024年度から導入された評価体系に沿って集計する
  3. 翌年度の状態:指導を終えた人が翌年度の健診でどの階層に移ったかを追う

そのうえで、グラフは「何と何を比べたいのか」を先に決めてから作ります。本記事では、厚生労働省の手引きや実施状況の公表資料に沿って、日常の集計・可視化の実務を解説します。指導の効果を統計的に検証する方法(傾向スコアマッチングや差の差分析など)は、別記事「特定保健指導の効果検証とデータ分析」で扱っています。

まず全国の数字を「物差し」として押さえる

自組織の数字を評価するには、比較の基準が必要です。厚生労働省が公表している「2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況」によると、2023年度の特定保健指導の対象者数は5,190,914人、終了者数は1,434,051人で、実施率は27.6%でした。2022年度の26.5%から1.1ポイント向上しています。

実施率は保険者の種類によって大きく異なります。同資料の保険者種別の実施率と、「特定健康診査等実施計画作成の手引き(第4版)」に示された第4期(2029年度)の目標値を並べると、次のとおりです。

保険者種別2023年度 実施率第4期の目標(2029年度)
健康保険組合(単一)45.5%60%以上
健康保険組合(総合)19.3%30%以上
共済組合35.1%60%以上(私学共済を除く)
全国健康保険協会19.0%35%以上
市町村国保29.1%60%以上
国保組合13.1%30%以上
全体27.6%45%以上

単一健保は全保険者種別のなかで最も実施率が高いものの、目標の60%とはなお差があります。総合健保・協会けんぽは、目標値そのものが単一健保より低く設定されています。自組織の実施率は、全体平均ではなく同じ種別の実績・目標と比べるのが妥当と言えます。

同資料は属性による差にも触れています。健康保険組合・共済組合では40〜64歳の女性の実施率が男性と比べて特に低く、市町村国保では逆に男性の実施率が女性より特に低いとされています。被用者保険の特定健診では被扶養者の実施率が低いことも示されています。全体の実施率だけを見ていると、こうした偏りは見落とされます。

なお、2024年度の実施状況はいったん公表されましたが、厚生労働省は2026年9月、令和6年度数値の一部に誤りが含まれている可能性があるとして、精査が終わるまで掲載を一時中止しています(本記事執筆時点)。2024年度の全国値を比較に使う場合は、再掲載後の数値を確認してください。

実施率の集計——分母と分子を国の定義に揃える

実施率の計算式そのものは「終了者数 ÷ 対象者数」と単純です。それでも組織内の集計値と国への実績報告の値が食い違う原因の多くは、分母と分子の数え方にあります。「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第4.3版)」(2026年3月)から、集計に直結する点を整理します。

分母:健診実施時点で対象者となった人は原則すべて含める

手引きは、保険者が優先順位を付けて一部の対象者に指導を行わない場合でも、後期高齢者支援金の加算・減算等の評価時の実施率の算定では、分母は対象者全員になると明記しています。医療機関の受診を勧めて保健指導を行わなかった人も、健診実施時点で対象者であれば分母に含まれます。「指導を案内した人」だけを分母にした社内集計は、国の定義より実施率が高く出るので注意が必要です。

一方、第4期からは、特定健診の実施後または特定保健指導の開始後に糖尿病等の生活習慣病の服薬を始めた人について、分母に含めないことも可能になりました。また、指導の途中で資格を喪失した人は、保険者の判断で指導を継続した場合でも、実績報告の実施率の分母・分子に含めることはできないとされています。

分子:3か月以上経過後の実績評価まで完了した人

実施率に数えられるのは「終了者」です。手引きでは、保健指導を実施率にカウントするには、3か月以上経過後の実績評価が完了していることが必要とされています。保険者が国に実施結果を提出する時期は、実施年度の翌年の11月1日です。この時期に間に合わなかったものの最後まで完了した人は、当初の実施年度の実績から外し、翌年度の実績として計上する扱いになっています。

つまり、年度の途中や年度末に集計した実施率は、あくまで暫定値です。理事会や委員会に途中経過を報告する際は、「何月時点の暫定値か」を明記し、確定値と混同しないようにします。

実施率を「利用」と「完了」に分解する

国に報告する指標は実施率ですが、組織内で改善策を考えるには、次のように分解して集計しておくと原因を特定しやすくなります(以下は国の定義ではなく、実務上の管理指標の例です)。

たとえば実施率が同じ30%でも、初回面接の実施割合が低いのか、初回面接後の離脱が多いのかによって、打ち手は大きく変わります。前者なら案内の方法や健診当日の初回面接の導入、後者なら継続支援の方法や委託先の運用を見直すことになります。

第4期の評価指標——アウトカムを集計する

2024年度に始まった第4期では、積極的支援の評価体系が大きく変わりました。手引き(第4.3版)によると、実績評価にアウトカム評価を導入し、主要達成目標を腹囲2cm・体重2kg減としています。あわせて、生活習慣病予防につながる行動変容(食習慣・運動習慣・喫煙習慣・休養習慣・その他の生活習慣の改善)や、腹囲1cm・体重1kg減をその他の目標として設定しています。プロセス評価は時間比例のポイントから介入1回ごとの評価に改められ、ICTを活用した支援も同水準で評価されます。

手引きに示された継続的な支援のポイント構成は次のとおりです。合計180ポイント以上で積極的支援の終了となります。

区分項目ポイント
アウトカム評価腹囲2.0cm以上かつ体重2.0kg以上減少180p
アウトカム評価腹囲1.0cm以上かつ体重1.0kg以上減少20p
アウトカム評価食習慣・運動習慣・休養習慣・その他の生活習慣の改善各20p
アウトカム評価喫煙習慣の改善(禁煙)30p
プロセス評価個別支援(1回最低10分)/グループ支援(1回最低40分)各70p
プロセス評価電話(1回最低5分)/電子メール等(1往復)各30p
早期実施健診当日の初回面接/健診後1週間以内の初回面接20p/10p

腹囲2cm・体重2kg減には別の基準もあります。手引きでは、当該年度の健診時の体重の値に0.024を乗じた体重(kg)以上、かつ同じ値の腹囲(cm)以上減少している場合も、この目標を達成したものとして扱うと注記しています。集計プログラムや表計算で判定式を組む際は、この条件を落とさないようにします。

国の「見える化」項目を自組織の集計表の骨格にする

第4期では、特定保健指導の成果の「見える化」も進められています。2023年3月の第4回「第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」の資料では、集計項目の案として次のようなものが示されました。

同資料では、第4期の実績報告データが集まる2026年以降、保険者ごとの集計結果を順次公表することが案として示されています。国の項目と同じ定義で自組織の集計表を作っておけば、公表が進んだときに他の保険者と比較しやすくなります。割合にするときの分母は「積極的支援終了者数」であり、対象者全体ではない点に注意します。

グラフ化の型——比べる軸を先に決める

「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」は、健診・保健指導の評価について、ストラクチャー(構造)、プロセス(過程)、アウトプット(事業実施量)、アウトカム(結果)のそれぞれを分析し、さらにそれらの関連性を分析することを求めています。グラフもこの枠組みに沿って、「どの段階の、何と何を比べるのか」を決めてから作ると、報告の筋が通ります。実務でよく使う型を5つ挙げます。

型1:経年推移と目標線(折れ線)

実施率の推移を折れ線で示し、第4期の目標値と同種別の全国実績を水平線や別系列で重ねます。「上がっているか」だけでなく「目標までの距離がどう変わったか」が一目でわかります。暫定値の年度は線種を変えるなどして区別します。

型2:属性別の比較(横棒)

性・年齢階級、被保険者・被扶養者、事業所別に実施率を並べます。前述のとおり、全国データでも健保・共済の40〜64歳女性や被扶養者で実施率が低い傾向が示されています。自組織でも同じ偏りがあるかを確認すると、重点的に案内すべき層が見えてきます。事業所別に分けると対象者が数人の区分も出るため、人数を併記し、少人数の区分の割合を過度に解釈しないようにします。

型3:支援の流れ(段階別の棒)

対象者数 → 初回面接 → 継続支援中 → 実績評価完了(終了)と、段階ごとの人数を左から並べます。どの段階で人数が大きく減っているかが、改善すべき箇所を示します。委託先が複数ある場合は、委託先ごとに同じ図を並べると運用の差が見えます。

型4:アウトカムの内訳(100%積み上げ帯)

積極的支援終了者を、「腹囲2cm・体重2kg減を達成」「腹囲1cm・体重1kg減」「行動変容の改善のみ」「介入のみで終了」に分けて帯グラフにします。複数の行動変容が重なる人もいるため、帯グラフにする場合は区分の優先順位を決めて1人1区分に割り当て、その規則を注記します。

型5:翌年度の階層化の遷移(積み上げ棒)

前年度の積極的支援終了者が、今年度の健診で「対象外(服薬なし)」「動機付け支援」「積極的支援」「対象外(服薬あり)」「未受診」のどれになったかを積み上げます。翌年度の健診を受けなかった人を除外せず、「未受診」として残すのがポイントです。除外すると、改善した人の割合が実態より高く見えるおそれがあります。

集計でつまずきやすい点

第3期と第4期のポイントは比較できない

第4期で評価体系が変わったため、2023年度以前と2024年度以降では、終了に至る条件もポイントの意味も異なります。経年グラフで実施率を並べるのは問題ありませんが、ポイントの内訳や支援回数を期をまたいで比較する場合は、制度変更の境目を図中に明示します。

終了者だけでアウトカムを語らない

「見える化」項目のアウトカムは、積極的支援終了者を分母とした集計です。途中で離脱した人は含まれないため、この割合だけで指導の効果を判断すると、効果を過大に見積もるおそれがあります。効果を論じるときは、対象者全体での変化や指導を受けなかった人との比較が必要になります。この点は「特定保健指導の効果検証とデータ分析」で詳しく解説しています。

年度・定義の違うデータを混ぜない

委託先ごとに集計の締め日や「終了」の扱いが異なると、合算した数字は意味を失います。委託先から受け取るデータは、国への実績報告と同じ定義・同じ時点で揃えてもらうよう、契約や仕様の段階で取り決めておくのが確実です。年度をまたいで完了した人の扱い(どの年度の実績に入れるか)も、事前に揃えておきます。

小さい数の割合を読みすぎない

単一健保の事業所別や、年齢・性別を細かく分けた区分では、対象者が数人から十数人になることがあります。1人の差で割合が大きく動くため、年ごとの上下に一喜一憂せず、複数年をまとめて見る、人数を必ず併記するといった工夫が必要です。

キバロクで支援できること

キバロク株式会社では、医師・医学博士でありデータサイエンティストでもある代表の市川太祐が、特定健診・特定保健指導データの集計設計から可視化、評価指標の設定までを支援しています。具体的には、国の定義に沿った実施率・アウトカム指標の集計表の設計、委託先から受け取るデータ仕様の整理、理事会・委員会向けのグラフと解説の作成、そして必要に応じた統計的な効果検証といった内容です。

集計の仕組みを一度整えておけば、毎年の報告は同じ手順で更新できるようになります。「どの数字を出せばよいのか整理したい」という段階からのご相談も承ります。

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