老化が炎症を生む仕組みが解明

解糖系の代謝物「PEP」が鍵だった

調査レポート
老化が炎症を生む仕組みが解明——解糖系の代謝物「PEP」が鍵だった

老化とともに体内でじわじわと進む慢性炎症「インフラメイジング(inflammaging)」。この現象は、認知症・心血管疾患・糖尿病など加齢に関連する多くの疾患の根底にあると考えられています。なぜ年を取るにつれて炎症を制御できなくなるのか——2026年3月、Nature Agingに発表された研究が、その仕組みを解くカギを突き止めました。

研究の概要

Song Zhenらの研究チームは、細胞がグルコース(糖)をエネルギーに変える「解糖系」の代謝物、ホスホエノールピルビン酸(PEP)に注目しました。

マウスとヒトの縦断データを解析したところ、PEPの体内濃度は加齢に伴い独特な「二相性」のパターンを示すことがわかりました。若い時期にはいったん増加し、その後加齢とともに急速に低下するのです。

この発見の核心は、PEPの意外な働きにありました。PEPは、慢性炎症の引き金となる免疫センサー「cGAS-STING経路」の活性化を直接抑制していたのです。cGAS-STING経路とは、細胞内に蓄積した老化細胞のDNA断片を「異物」と認識して炎症反応を引き起こす経路で、近年の老化研究で重要な標的として注目されています。

つまり、若い頃は豊富なPEPがこの炎症経路にブレーキをかけているものの、加齢によってPEPが低下すると炎症の「抑え」が効かなくなる——これがインフラメイジングの分子メカニズムの一つである可能性が示されました。

実験では、PEPが自然に低下する前にマウスへ補充すると健康的な老化が促進されることも確認されています。さらに、アルツハイマー病モデルマウスへのPEP投与では認知機能の改善が見られました。ヒトのデータでも、高齢者でPEPレベルが高い人ほど炎症マーカーが低く、複数の健康指標が良好であることが示されています。

日常生活への示唆

PEPは私たちの細胞がエネルギーを作り出す過程で自然に生成される物質です。現時点でPEPを直接補充するサプリメントは存在しませんが、この研究は「代謝の健康が老化と炎症の抑制に深く関わる」可能性を示唆しています。

インフラメイジングを遠ざけるために今日からできることとして、以下が挙げられます:

この研究はまだマウス実験と観察データによる相関の段階であり、PEP補充療法が人間に対して直接有効かどうかを確認するには、さらなる研究が必要です。しかし、老化と炎症の分子的なつながりを代謝の視点から解明した重要な一歩として、今後の創薬・予防医学への応用が期待されます。

出典

Song Z., Hu H., Zhang W. et al. "The glycolytic metabolite phosphoenolpyruvate restricts cGAS-driven inflammation to promote healthy aging." Nature Aging (2026). DOI: 10.1038/s43587-026-01087-1

キバロクは予防医療×データの実装を支援します

こうした研究知見を、貴社の健康経営・健保事業・人間ドック施設の現場でどう使うか — 医師・医学博士×データサイエンティストが外部顧問として伴走します。まずは30分の無料相談から。

無料相談を予約する
調査レポート一覧に戻る