私たちが風邪や感染症で処方される抗生物質。その1回の服用が、腸内細菌叢に数年単位の影響を及ぼす可能性があることが、スウェーデンの大規模研究で明らかになりました。腸内環境の重要性が広く認識される今、この研究結果は抗生物質との付き合い方を見直すきっかけになるかもしれません。
約1万5千人の処方履歴と腸内細菌を照合
スウェーデン・ウプサラ大学のBaldanziらの研究チームは、スウェーデン処方薬登録データベースと14,979人の成人から採取した糞便メタゲノムデータを組み合わせ、過去8年間にわたる経口抗生物質の使用履歴と腸内細菌叢の組成との関連を調べました。対象となったのは11種類の抗生物質です。
その結果、抗生物質の種類によって腸内細菌叢への影響の大きさと持続期間に顕著な差があることがわかりました。
種類によって異なる「腸へのダメージ」
最も強い影響を示したのはクリンダマイシンで、糞便採取の1年以内に1コース服用するだけで、検出される腸内細菌の種数が平均47種も減少していました。フルオロキノロン系では20種、フルクロキサシリンでは21種の減少が確認されています。
さらに注目すべきは、これらの影響が長期にわたって持続する点です。クリンダマイシン、フルオロキノロン系、フルクロキサシリンについては、服用から4〜8年経過した後でも、腸内細菌種の10〜15%で存在量の変化が認められました。研究チームが参加者を「1コースのみ服用」と「未使用」に限定して分析したところ、11種類中7種類の抗生物質で、たった1回の服用が4〜8年後の腸内細菌多様性の低下と関連していたことが示されています。
一方、スウェーデンで最も多く処方されるペニシリンVやアモキシシリンでは、腸内細菌多様性への影響は小さく、短期間で回復する傾向がみられました。
回復には時間がかかる
腸内細菌の多様性は抗生物質の使用後2年間で最も速く回復しますが、その後の回復速度は鈍化し、完全には元に戻らない可能性が示唆されています。疫学的な研究では、抗生物質の多用と2型糖尿病や消化管感染症のリスク上昇との関連も報告されており、腸内細菌叢の長期的な変化が健康全般に影響を及ぼしている可能性があります。
私たちにできること
この研究から得られる実践的なメッセージはシンプルです。まず、抗生物質が本当に必要な場面では迷わず服用することが大切です。抗生物質は重篤な感染症において命を救う薬であり、その価値は揺るぎません。
その上で、次の点を意識してみてください。
- 軽い風邪やウイルス性の感染症で安易に抗生物質を求めない
- 処方された場合は、主治医にどの種類の抗生物質か確認し、腸への影響について相談する
- 抗生物質の服用後は、発酵食品や食物繊維の豊富な食事を意識し、腸内細菌の回復をサポートする
- 日常的に多様な植物性食品を摂り、腸内細菌の多様性を維持する
「どの抗生物質を選ぶか」が腸内環境の将来を左右する——この視点は、医療者と患者の双方にとって重要な判断材料になるのではないでしょうか。
出典
Baldanzi, G. et al. "Antibiotic use and gut microbiome composition links from individual-level prescription data of 14,979 individuals." Nature Medicine (2026). DOI: 10.1038/s41591-026-04284-y https://www.nature.com/articles/s41591-026-04284-y
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