腸内細菌は「同じ種でも別物」だった

ウィーン大が明かした、加齢・大腸がん・糖尿病と結びつく隠れた進化系統

調査レポート
腸内細菌は「同じ種でも別物」だった——ウィーン大が明かした、加齢・大腸がん・糖尿病と結びつく隠れた進化系統

腸内細菌叢の研究では、これまで「Bacteroides属」「Faecalibacterium属」といった種レベルの分類を基準に、健康との関連が語られてきました。しかし、同じ種に見える細菌でも、内部にまったく異なる進化系統が潜んでいる可能性が示されました。Natureに2026年5月に掲載されたウィーン大学の研究は、その「隠れた構造」を初めて体系的に描き出した点で、プロバイオティクスや精密医療の方向性を大きく変える可能性があります。

研究の概要

ウィーン大学・微生物学および環境システム科学センター(CeMESS)のチームは、世界中から集められた数千株の腸内細菌分離株と、地理的・民族的に多様な集団のメタゲノムデータを統合解析しました。用いた手法は「逆生態学(reverse ecology)」と呼ばれ、ゲノム上に残された自然選択の痕跡、いわゆる「ゲノムワイドな選択的スイープ」を読み解くことで、細菌の集団構造を推定するものです。

その結果、これまで一つの種とされてきた多くの腸内細菌が、進化的に区別できる複数のサブグループ(生態単位)に分岐していることが判明しました。さらに重要なのは、これらのサブグループの一部が、加齢、炎症性腸疾患、大腸がん、2型糖尿病と特異的に関連していた点です。つまり、同じ「種」に分類されていても、その人の腸内に定着しているのがどのサブグループかによって、疾患リスクが大きく異なる可能性が示唆されました。

日常生活への示唆

この研究は、すぐに食習慣を変えるべきという内容ではありません。しかし、いくつか押さえておきたい示唆があります。

第一に、市販のプロバイオティクス製品は「菌種名」までしか表示されていないことが多いのが現状です。今後は、どの「株(strain)」を使っているかが効果を左右する重要情報になっていくと考えられます。製品を選ぶ際は、株名まで明記されているものを優先する方が安心と言えます。

第二に、腸内細菌叢検査の解釈にも注意が必要です。現行の市販検査で「善玉菌が多い/少ない」と判定されても、それがどのサブグループまで分けたものかは限定的です。検査結果に一喜一憂せず、食物繊維と発酵食品を中心とした食生活で多様性そのものを保つことが、現時点で最も確実な対策と言えるでしょう。

第三に、加齢に伴って特定の細菌系統が優勢になり、疾患リスクと結びつく可能性も示されました。中高年期以降は特に、規則正しい食事・適度な運動・十分な睡眠といった生活習慣で腸内環境を整える意義が大きいと考えられます。

出典

Genome-wide sweeps create ecological units in the human gut microbiome. University of Vienna, Centre for Microbiology and Environmental Systems Science(CeMESS)ほか. Nature, 2026年5月公開. DOI: 10.1038/s41586-026-10476-w https://www.nature.com/articles/s41586-026-10476-w

キバロクは予防医療×データの実装を支援します

こうした研究知見を、貴社の健康経営・健保事業・人間ドック施設の現場でどう使うか — 医師・医学博士×データサイエンティストが外部顧問として伴走します。まずは30分の無料相談から。

無料相談を予約する
調査レポート一覧に戻る