老化の「炎症スイッチ」を切る代謝物質

解糖系の代謝物PEPがcGAS-STING経路を抑え健康長寿を後押しする

調査レポート
老化の「炎症スイッチ」を切る代謝物質——解糖系の代謝物PEPがcGAS-STING経路を抑え健康長寿を後押しする

加齢にともなって慢性的な微小炎症(インフラメイジング)が進み、認知機能の低下や全身の老化を加速させることが知られています。最近、解糖系のごくありふれた代謝物であるホスホエノールピルビン酸(PEP)が、この炎症を内側から抑える「天然の抗炎症スイッチ」として働くことが報告されました。Nature Aging誌に掲載された最新研究は、老化を「燃やしすぎる炎症」の問題として捉え直し、代謝そのものを治療標的にできる可能性を示しています。

研究チームはマウスとヒトで長期的にPEPの濃度を追跡し、加齢にともなって特徴的な二相性のパターンが現れることを突き止めました。中年期までは一旦上昇するものの、その後はゆるやかに減少していくのです。さらに細胞内でのメカニズム解析により、PEPは病原体DNAや自身の漏れ出した核DNAを感知する「cGAS-STING経路」に直接結合し、その活性を競合的に阻害することが示されました。cGAS-STINGは本来、感染やがん細胞を見つけるための重要なセンサーですが、年齢とともに過剰に反応すると、慢性炎症と組織のダメージを引き起こします。PEPはこの過剰反応にブレーキをかける「内因性インヒビター」として機能するというのが本研究のコアな発見です。

機能実験では、マウスでPEPの蓄積を妨げると炎症が悪化し、老化関連表現型が前倒しで現れました。一方、PEPが減少しはじめる前にPEPを補充すると、炎症が抑えられ、健康的な老化が促進されました。さらにアルツハイマー病モデルマウスでは認知機能の改善も確認されています。ヒトの解析でも、高齢者で血中PEPが高い人ほど炎症マーカーが低く、健康に関する指標が良好でした。代謝物のレベルが、老化のスピードを左右する重要な「物差し」になり得ることが示唆されています。

日常生活への示唆として、まず大切なのは、PEPを増やすサプリメントを自己判断で探すのではなく、PEPを生み出す解糖系の代謝が健全に回る生活習慣を意識することです。具体的には、適度な有酸素運動と筋トレを継続して骨格筋を保ち、ミトコンドリアと解糖系の代謝能力を維持すること、過剰な糖質と慢性的なエネルギー過剰を避け代謝の柔軟性を保つこと、睡眠を整え交感神経の慢性興奮による微小炎症を抑えることが基本となります。さらに、cGAS-STING経路を慢性的に煽る要因——慢性感染、内臓脂肪、紫外線による細胞ダメージ、喫煙——を減らすことも、結果として「炎症の素」を減らす重要な戦略と考えられます。本研究はあくまで前臨床段階の知見ですが、健康長寿を支えるのは華々しい新薬よりも、まず代謝と炎症をいたわる生活習慣であることを改めて示しています。

出典: Song, Z., Hu, H., Zhang, W. et al. The glycolytic metabolite phosphoenolpyruvate restricts cGAS-driven inflammation to promote healthy aging. Nature Aging (2026). DOI: 10.1038/s43587-026-01087-1 / https://www.nature.com/articles/s43587-026-01087-1

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