漢方薬を飲んでも効く人と効かない人がいる、という現象は古くから知られていました。その鍵を握るのが、私たちの腸内に棲む細菌たちであることが、近年の研究で明らかになりつつあります。Journal of Natural Medicinesに掲載された最新の総説論文は、伝統的な漢方薬や天然物の薬理作用に腸内細菌叢が中心的な役割を果たすことを、複数の具体例とともに整理しています。
研究の概要
東京薬科大学の五十嵐信智准教授らによる本レビューは、2000年以上の歴史を持つ漢方医学の薬理作用を、現代の腸内細菌学の視点から再評価したものです。漢方薬の多くは経口投与されるため、腸管内で常在菌と必然的に出会います。著者らは、この出会いが薬の効き目を「決定する」プロセスを、代表的な処方を通じて解説しています。
一つ目の例が、肥満症に用いられる防風通聖散です。高脂肪食を与えたマウスに防風通聖散を投与すると、ムチン分解菌として知られるアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)が腸内で増殖し、腸管バリア機能が改善するとともに糖代謝も向上することが報告されています。アッカーマンシア菌は近年、肥満や糖尿病、代謝健康の指標として注目されている細菌であり、防風通聖散の抗肥満作用の一端がこの菌の増加によって説明できる可能性が示されています。
二つ目の例は、便秘薬として処方される大黄甘草湯です。大黄に含まれる配糖体センノシドAは、そのままでは下剤作用を発揮しません。腸内細菌が糖を切り離してレインアンスロンに変換することで、初めて大腸を刺激する活性体になります。つまり腸内細菌が「プロドラッグを活性化する酵素」として働いており、菌叢の状態によって効き目が変動することになります。
著者らはこのほかにも、ベルベリンや配糖体類など天然物全般について、腸内細菌による代謝変換が薬効発現に不可欠であることを論じています。
日常生活への示唆
このレビューが示すのは、漢方薬の効果には個人差があり、その背景に腸内環境の違いが横たわっているという事実です。明日から意識できることとして、まず漢方薬を服用する際は、自己判断で長期間続けるのではなく、効果を感じにくい場合に「自分の腸内環境」を視野に入れて医師や薬剤師に相談することが挙げられます。また、抗生物質の乱用は腸内細菌叢を撹乱し、漢方薬を含む経口薬の効き目に影響しうるため、必要最小限の使用を心がけることも重要です。さらに、食物繊維や発酵食品を日常的に取り入れて多様な腸内細菌を保つことは、漢方薬・西洋薬を問わず、薬の働きを支える基盤づくりにつながると言えます。
漢方薬は単なる「マイルドな薬草」ではなく、腸内細菌と協働して効果を発揮する精緻なシステムです。自分の体内の小さな共生者を意識することが、伝統医療を活かす第一歩となります。
出典
Ikarashi N, Kon R, Sakai H, Hosoe T. "Role of the gut microbiota in the pharmacological effects of traditional Kampo medicine and natural products." Journal of Natural Medicines, 2025. DOI: 10.1007/s11418-025-01959-7 https://link.springer.com/article/10.1007/s11418-025-01959-7
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