慢性期の脳卒中でも手が動く

脊髄に電気刺激を当てる新療法、Nature Medicineに第I相試験の結果

調査レポート
慢性期の脳卒中でも手が動く——脊髄に電気刺激を当てる新療法、Nature Medicineに第I相試験の結果

脳卒中で麻痺した腕や手は、発症から半年を過ぎると「もう良くならない」と告げられることが多いものです。ところが2026年6月4日、Nature Medicine誌に発表された研究は、その常識を覆す可能性のある結果を示しました。脊髄に電気刺激を与えるだけで、慢性期の脳卒中患者の腕の力が即座に強くなったのです。

7人の小規模試験が示した「即効性」

研究を行ったのは米国ピッツバーグ大学とカーネギーメロン大学の共同チームです。対象は脳卒中の後遺症で重度から中等度の片麻痺が残った成人7人で、Fugl-Meyer評価(FMA、満点66点)が15〜35点という、日常生活で腕をほとんど使えない状態の方々でした。

研究チームは頸髄(首の高さの脊髄)に細い電極リードを2本、患者の麻痺側のみに留置し、4週間にわたり刺激を行いました。電極は一時的なもので、試験終了後に抜去されています。トレーニングは合計9時間未満と、従来のリハビリと比べてもごく短時間です。

その結果、刺激中は全員で腕の筋力が平均32%向上し、FMAスコアも平均5.6点改善しました。重度の麻痺がある患者でも即座に効果が現れ、痙縮(筋肉のつっぱり)も軽減したと報告されています。重篤な有害事象はゼロでした。

なぜ脊髄を刺激すると動くようになるのか

脳卒中で損傷するのは脳ですが、腕を実際に動かす運動神経は脊髄を経由します。脳からの指令が弱まっても、脊髄の神経回路自体は生き残っているケースが多いと考えられてきました。研究チームは、脊髄を電気的に「底上げ」することで、わずかに残った脳からの指令を増幅し、動かせなかった筋肉を再び動かす経路を作り出したと説明しています。

これまでの脳卒中リハビリは、脳の可塑性に頼って数ヶ月〜数年かけて再学習させる方法が主流でした。今回の手法は刺激を入れた瞬間から効果が出るという点で、まったく異なるアプローチと言えます。

明日からできることは何か

この治療はまだ第I相の小規模試験段階であり、すぐに一般の医療現場で受けられるわけではありません。今後、より大規模な試験で長期的な安全性と効果が検証されていく必要があります。

ただし、脳卒中サバイバーの方やそのご家族にとって重要な示唆があります。発症から年単位が経過していても、麻痺した腕の機能が改善する可能性は残されているということです。「もう治らない」と諦めず、最新のリハビリテーション医療の動向に目を向け、主治医や理学療法士と相談を続けることが大切と言えます。また、脳卒中の最大のリスク因子は高血圧です。血圧管理、減塩、適度な運動、禁煙といった日常の積み重ねが、そもそも脳卒中を起こさないための最良の備えであることは変わりません。

出典

Powell, M.P., Verma, N., Sorensen, E., et al. "Spinal cord stimulation for upper limb motor function in people with chronic post-stroke hemiparesis: a feasibility trial." Nature Medicine (2026). DOI: 10.1038/s41591-026-04435-1 https://www.nature.com/articles/s41591-026-04435-1

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