脳卒中は、ある日突然おそってくる病気だと思われがちです。しかし、その何年も前から、体には「予兆」が積み重なっているのかもしれません。2026年3月、Nature Communicationsに掲載された4か国の大規模研究が、「内在的能力(intrinsic capacity)」という新しいものさしで脳卒中のリスクを予測できる可能性を示しました。血圧やコレステロールだけでは見えてこない、新しい健康のとらえ方です。
内在的能力とは何か
内在的能力とは、世界保健機関(WHO)が健康な老いの中心に据えた概念で、一人の人が持つ心身の総合的な機能のことを指します。具体的には、(1)認知機能、(2)心理的な状態、(3)移動する力(運動機能)、(4)活力(栄養・体力)、(5)感覚機能(視覚・聴覚)という5つの領域から成り立っています。一つひとつの病気を「引き算」で見るのではなく、生きる力を「足し算」でとらえる発想だと言えます。
研究でわかったこと
研究チームは、アメリカ(HRS)、ヨーロッパ(SHARE)、イングランド(ELSA)、中国(CHARLS)という4つの大規模高齢者調査のデータを統合しました。延べ約129万人年という長期間の追跡のなかで、15,125件の脳卒中が新たに確認されています。
その結果、追跡開始時・中間時点・終了時点を通じて内在的能力が一貫して低かった人は、中程度を保っていた人と比べて、脳卒中の発症リスクが約2.1倍(ハザード比2.11、95%信頼区間1.95〜2.19)高いことが示されました。さらに注目すべきは、80歳以上の高齢者でも、内在的能力が高い人ほど脳卒中の発症が少なかった点です。年齢を重ねても、機能を保つことには意味があると示唆されます。
明日からできること
内在的能力の5領域は、いずれも日々の生活で働きかけられるものです。認知機能には会話や学びの習慣を、心理面には孤立を避け人とつながることを、運動機能には毎日の歩行や筋力を保つ運動を、活力にはたんぱく質を含むバランスの良い食事を、そして感覚機能には眼鏡や補聴器による視覚・聴覚のケアを心がけてみてください。
大切なのは、どれか一つの数値を完璧にすることではなく、5つの力を全体としてゆるやかに底上げしていく姿勢です。健康診断の数字に一喜一憂するだけでなく、「自分はまだしっかり歩けているか」「人と会話を楽しめているか」といった視点を持つことが、将来の脳卒中予防につながるのかもしれません。
出典
論文タイトル: Intrinsic capacity and stroke risk in a multiple cohort study 掲載誌: Nature Communications(2026年3月11日掲載) DOI: 10.1038/s41467-026-70524-x URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-70524-x
※本記事は研究結果の紹介であり、個別の診断や治療方針については医療機関にご相談ください。
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