私たちは年齢を重ねるにつれ、血液をつくる幹細胞に少しずつ体細胞変異が積み重なっていきます。変異を持つ細胞が広がる現象は「クローン性造血」と呼ばれ、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることが分かっています。Mount Sinai医科大学のチームは、9万人規模のヒトデータと変異別マウス実験を組み合わせ、十分な睡眠と適度な運動が変異細胞の「悪さ」を抑え込むことを2026年6月10日のNature誌で報告しました。しかも効き方は変異の種類によって違うという、個別化予防の視点を示す内容です。
研究チームは、UKバイオバンクの約83,000人とAll of Usの8,404人のデータを解析し、JAK2やTET2など一部の変異を持つクローン性造血では、中強度から高強度の身体活動を行っている人ほどクローンの広がりが小さいことを見出しました。一方、最も頻度の高いDNMT3A変異では運動量との関連がはっきりせず、変異の種類によって生活習慣の効きが違うことが示されました。
メカニズムも明らかにしました。動脈硬化を起こすマウスにJAK2やTET2の変異を持たせると、変異細胞のクローンが拡大して血管に炎症を起こします。ところが、睡眠を中断させずに十分にとったマウスでは、変異マクロファージの炎症を引き起こすCLEC4Eという経路が抑えられ、クローン拡大が止まりました。運動をさせたマウスでは、交感神経のADRB2経路が働き、動脈硬化の病巣そのものが小さくなりました。
つまり、加齢で避けられない遺伝子の傷を、生活習慣で「鳴かないように」できる、ということです。
日常生活への示唆として、まとまった睡眠を中断させずにとること、そしてウォーキングや軽い筋トレなど中強度の運動を継続することが、年齢とともに増える血液細胞の変異リスクをやわらげる可能性があります。もちろん本研究はマウス実験と観察研究の組み合わせであり、すべての人に同じように効くとは限りません。それでも、健診で動脈硬化のサインが見えてきた中高年の方にとって、睡眠と運動を整えることが将来の心血管リスクを下げる地道な一手であることは、改めて裏付けられた結果と言えます。
出典
Gerhardt, T. et al. Mutation-dependent responses to sleep and exercise in clonal haematopoiesis. Nature (2026). 公開日: 2026年6月10日。 最終著者: Cameron McAlpine (Icahn School of Medicine at Mount Sinai) DOI: 10.1038/s41586-026-10634-0
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