「便を移植する」治療を、15種類の菌だけで再現する

再発性C. difficile感染症で糞便移植と肩を並べた次世代の生菌製剤

調査レポート
「便を移植する」治療を、15種類の菌だけで再現する——再発性C. difficile感染症で糞便移植と肩を並べた次世代の生菌製剤

抗菌薬が効かず、何度も再発する腸の感染症があります。クロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染症です。その切り札として、健康な人の便を患者の腸に移す「糞便微生物移植(FMT)」が高い効果を上げてきました。しかし便そのものを使う以上、中身が一定せず、安全性の確認や大量供給が難しいという課題が残っていました。今回ご紹介するのは、その便の働きを「設計図のある15種類の菌」だけで再現しようという試みです。Nature Medicineに2026年6月2日に掲載された、米マウントサイナイ医科大学を中心とする第1b相試験の報告です。

研究チームが用意したのは、MTC01と名づけられた生菌製剤(リビング・バイオセラピューティクス)です。これは特定のドナーの便から分離した15種類の腸内細菌を、培養によって体外で製造したものです。便を直接移植するのではなく、同じ顔ぶれの菌を工場のように再現性高くつくり出す点が新しいところです。

試験では、再発性C. difficile感染症の患者20人をスクリーニングし、条件を満たした18人を4つのグループに振り分けました。低用量のFMTに4人、高用量のFMTに5人、低用量のMTC01に4人、高用量のMTC01に5人という構成です。投与は内視鏡を使って腸内に届ける方法がとられました。

結果として、投与から8週間後の時点で、MTC01を受けた9人のうち7人で再発が抑えられました。これは便そのものを移植したFMT群の9人中8人とほぼ同等の成績です。さらに注目されたのが、投与した菌が患者の腸に「住み着く」度合い、いわゆる定着(エングラフトメント)でした。MTC01でもFMTでも定着は高く持続的で、製剤側では用量を増やすほど定着が高まる傾向もみられました。安全性についても、内視鏡による投与は問題なく行えたと報告されています。

この研究が示しているのは、便という「中身の分からない素材」に頼らなくても、定義された菌の組み合わせで同じような効果を引き出せる可能性です。FMTは効果が高い一方で、ドナーごとに組成が違い、感染症のスクリーニングや品質の均一化、安定供給に大きな労力がかかります。あらかじめ決まった15種類の菌を培養してつくる製剤であれば、組成が一定で、検査もしやすく、大量生産にも向くと考えられます。

ただし、今回はあくまで18人という小規模な初期段階の試験です。有効性を確定するには、より多くの患者を対象とした大規模な検証が必要になります。現時点で「FMTを置き換える治療法が確立した」と言える段階ではない点には注意が必要です。

私たちが日常生活ですぐにできることは多くありませんが、この研究は腸内細菌をめぐる医療の方向性を考えるうえで示唆に富んでいます。これまで「腸内環境を整える」という言葉は、食物繊維や発酵食品といった生活習慣の話として語られることが多くありました。しかし今後は、どの菌が、どれだけ、どのように腸に定着するかを精密に設計する「菌の医薬品化」が進んでいく可能性があります。抗菌薬を繰り返し使っても治らない感染症に苦しむ人にとって、再現性が高く安定供給できる治療の選択肢が広がることは、大きな希望につながると言えるでしょう。

腸内細菌の世界は、まだ分からないことだらけです。だからこそ、便という複雑なものをそのまま使う段階から、必要な菌だけを取り出して設計する段階へと進もうとする今回の一歩は、これからの予防・治療医療を見通すうえで覚えておきたい研究だと考えます。

出典 論文タイトル: 15-strain live biotherapeutic product or same donor fecal microbiota transplant for recurrent Clostridioides difficile infection: a randomized phase 1b trial 著者: Lukas Bethlehem、Ari Grinspan、Jeremiah J. Faith ほか(米マウントサイナイ医科大学 Icahn School of Medicine、マサチューセッツ総合病院、デューク大学ほか) 掲載誌: Nature Medicine(2026年6月2日オンライン公開) DOI: 10.1038/s41591-026-04442-2

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