鼻づまりの点鼻薬が「老化を止める薬」の候補に

6,442種の既存薬をネットワーク解析、14剤が有力候補に浮上

調査レポート
鼻づまりの点鼻薬が「老化を止める薬」の候補に——6,442種の既存薬をネットワーク解析、14剤が有力候補に浮上

「老化を遅らせる薬」を一からつくるのではなく、すでに使われている薬の中から探し出す。そんな発想の研究がNature Agingに発表されました。米ノースイースタン大学やハーバード大学などのチームは、承認済み・実験段階を合わせて6,442種類の化合物を対象に、老化の生物学的な特徴を標的にできる候補を大規模に洗い出しています。膨大な既存薬を「老化の地図」の上に並べ直すという、これまでにないアプローチです。

研究チームはまず、寿命に関連する2,358個の遺伝子を、ヒトのタンパク質同士のつながり(インタラクトームと呼ばれる相互作用の地図)の上に配置しました。老化には、細胞老化、ミトコンドリアの機能低下、オートファジー(細胞が不要なものを分解・再利用する働き)の低下など、複数の「ハルマーク(特徴)」があることが知られています。チームは、各ハルマークを担う遺伝子群がネットワーク上でひとかたまりの領域をつくることを見いだし、6,442種の薬がそれぞれのハルマークにどれだけ近い場所で作用するかを計算しました。

さらに、pAGEという新しい指標を導入しています。これは、ある薬が細胞内の遺伝子の働きを、老化で起こる変化と同じ方向に押すのか、それとも逆向きに戻すのかを評価するものです。ネットワーク上の近さとpAGEを組み合わせることで、老化の特徴を打ち消す方向に働く薬を絞り込みました。

その結果、370種類の薬が老化のハルマークに近い作用を持つと判定され、遺伝子発現データが得られた60種のうち14種が、複数の基準で一貫して老化に逆らう方向を示しました。具体的には、鼻づまりに使われる点鼻薬オキシメタゾリンが細胞間の情報伝達の乱れに、あるJNK阻害薬がミトコンドリアの機能低下に、抗がん剤候補のイメクソンがオートファジーの低下に、それぞれ関連する候補として浮かび上がっています。

ただし、これらはあくまでコンピューター解析から導かれた仮説であり、人での効果や安全性が確かめられたわけではありません。市販の点鼻薬を老化予防の目的で使うようなことは、決してしないでください。過剰な使用はかえって健康を害する恐れがあります。この研究の価値は、老化という複雑な現象を分子レベルの地図として描き出し、既存薬という膨大な資源の中から、検証すべき候補を効率よく提示した点にあると言えます。

私たちが今できることは、こうした新しい老化研究の進展を冷静に見守りつつ、運動・十分な睡眠・バランスの取れた食事といった、すでに効果が確立された健康習慣を地道に続けることだと考えられます。将来、身近な薬が「健康寿命を延ばす薬」として姿を変える日が来るのか、続報に注目したいところです。

出典 論文タイトル: Network-driven discovery of repurposable drugs targeting hallmarks of aging 著者: Bnaya Gross, Joseph Ehlert, Vadim N. Gladyshev, Joseph Loscalzo, Albert-László Barabási 掲載誌: Nature Aging DOI: 10.1038/s43587-026-01161-8

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