年を重ねると筋肉が衰えるのは避けられないと考えられてきました。ところが、運動を長く続けてきた高齢者の筋肉を分子レベルで調べたところ、加齢にともなうはずの変化のおよそ半分が見当たらなかったのです。オランダの研究チームがNature Aging誌に報告した最新の研究は、運動が「老いた筋肉」の常識をくつがえす可能性を示しています。
何を調べた研究なのか
研究チームは、若い人と高齢者の太ももの筋肉組織を採取し、遺伝子の働き(トランスクリプトーム)、脂質(リピドーム)、代謝物(メタボローム)を網羅的に解析しました。高齢者は、日常の活動量が同程度のグループと、長年トレーニングを続けてきたグループに分けて比較しています。さらに、軽い運動を1回行った直後の筋肉の反応も測定し、運動に対する体の応答が年齢や体力でどう変わるかを詳しく調べました。
わかったこと
活動量が普通の高齢者では、細胞のエネルギー産生(細胞呼吸)にかかわる遺伝子の働きが、若い人に比べて低下していました。筋肉が疲れやすく力を出しにくくなる背景に、こうしたエネルギー代謝の衰えがあると考えられます。
ところが、トレーニングを続けてきた高齢者では、この加齢による遺伝子発現の違いのおよそ50パーセントが見られなくなっていました。エネルギー代謝に関する筋肉の状態が、若い人に近いところまで保たれていたのです。
さらに、1回の運動に対する筋肉の分子レベルの反応も、鍛えている高齢者ほど若い人に近い形を示しました。運動後の免疫や細胞ストレスに関する反応の大きさは、その人の体力の高さと正の相関を示したと報告されています。研究チームは、規則的な運動によって活動量をさらに高めることで、加齢の影響を大きく打ち消せる可能性があると述べています。
明日からできること
この研究が伝えているのは、筋肉の老化は運命ではなく、日々の運動習慣によって変えられる余地が大きいということです。特別なアスリートである必要はなく、続けることそのものに意味があると考えられます。
まずは、ウォーキングや軽いジョギングといった有酸素運動に加えて、スクワットや階段の上り下りなど、筋肉に負荷をかける動きを週に数回取り入れてみてください。今の活動量が少ない人ほど、そこから運動量を増やすことで得られる効果は大きいと示唆されています。何歳から始めても、筋肉は運動に応えてくれる可能性があります。今日の一歩が、数年後の筋肉の若さにつながるかもしれません。
出典
論文タイトル: Delayed molecular aging, preservation of energy metabolism and enhanced exercise response in exercise-trained human muscle
著者: Georges E. Janssens、Maria M. Trętowicz、Lotte Grevendonk、Patrick Schrauwen、Joris Hoeks、Riekelt H. Houtkooper ほか
掲載誌: Nature Aging(2026年7月3日公開)
DOI: 10.1038/s43587-026-01150-x
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