中年期の血液に「脳の老化」のサインが表れる

きのこに多い成分エルゴチオネインが認知機能と関連、1,082人の解析

調査レポート
中年期の血液に「脳の老化」のサインが表れる——きのこに多い成分エルゴチオネインが認知機能と関連、1,082人の解析

年をとって認知症の症状が出てから対策を考えるのでは、手遅れになりかねません。もし血液を調べるだけで、まだ症状のない中年のうちから脳の健康状態を読み取れるとしたら、どうでしょうか。オランダのロッテルダム研究に基づく新しい解析が、その手がかりとなる血中成分を明らかにしました。

研究チームは、認知症を発症していない中年の参加者1,082人を対象に、血液中の991種類もの代謝物(体内でつくられる小さな分子)を測定し、認知機能の検査結果や脳のMRI画像との関連を調べました。その結果、14種類の代謝物が認知機能と、繰り返し確認できる関連を示しました。

なかでも最も強い関連がみられたのが、エルゴチオネインという抗酸化作用をもつ成分です。エルゴチオネインの血中濃度が高い人ほど認知機能が良好で、アルツハイマー病の発症リスクが低いことが示唆されました。このほか、ウリジンや2-デオキシウリジンといった成分も、濃度が高いほど認知機能が良い傾向がみられました。

興味深いのは、これらの成分の量が生活習慣と結びついていた点です。エルゴチオネインが高い人は、BMI(体格指数)が低く、教育年数が長い傾向がありました。一方、喫煙者ではウリジンなどが低く、硫酸化された代謝物が増えていました。生活習慣が、脳の健康に関わる代謝物の量のかなりの部分を説明できたと報告されています。

もう一つ注目されたのが、胃薬(制酸薬)との関係です。制酸薬の使用と認知機能の低下との関連のうち、31.5%がエルゴチオネインの低下を介していた可能性が示されました。ただし、これは横断的な探索的解析であり、因果関係を証明したものではないと著者らは慎重に述べています。

では、日常生活で何ができるでしょうか。エルゴチオネインは体内でつくることができず、食事から取り入れる必要があります。きのこ類に多く含まれることが知られており、日々の食卓にきのこを一品加えることは、無理なく取り入れられる工夫と言えるでしょう。また、禁煙や適正体重の維持といった、これまで健康に良いとされてきた習慣が、脳に関わる代謝物のレベルにも表れていた点は示唆的です。胃薬を常用している方は、自己判断で中止するのではなく、気になる場合は医師や薬剤師に相談することをおすすめします。

血液という身近な窓から、症状が出る前の脳の状態に迫る。予防医学の新しいかたちを感じさせる研究と言えます。

出典 論文タイトル: The blood metabolome of brain health in midlife and influences of genes, microbiome and exposome 著者: Ahmad S, Wu T, Arnold M, et al.(アルツハイマー病代謝物コンソーシアム) 掲載誌: Nature Aging(2026年) DOI: 10.1038/s43587-026-01149-4

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