お酒をほとんど飲まないのに肝臓に脂肪がたまる「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」は、いまや世界で最も多い慢性肝臓病とされ、日本でも成人の3人に1人前後が該当すると考えられています。この病気と腸内細菌の関係はこれまでも指摘されてきましたが、腸の中には細菌だけでなくウイルス(細菌に感染するファージ)やカビ(真菌)も共存しています。今回、その三者を同時に読み解く研究がNature Communicationsに発表され、脂肪肝の腸では「生態系全体」が連動して崩れていることが示されました。
研究チームは、MASLDと診断された患者210人と、年齢・性別をそろえた健康な人210人、合わせて420人の便を集めました。そのうえで、細菌の遺伝子を網羅的に読むショットガンメタゲノム解析、真菌を調べるITS2シーケンス、便に含まれる代謝物を測るメタボローム解析、そして臨床データを組み合わせ、腸内の「細菌・ウイルス・真菌」という異なる生物界(キングダム)をまたいで比較しました。
その結果、脂肪肝の人の腸では微生物の多様性が低下し、細菌・ウイルス・真菌がつくる生態的なネットワークが広く作り替えられていることがわかりました。とくに目立ったのが、炎症との関連が知られる細菌ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)が中心的なハブとして増えていた一方で、腸の健康維持に役立つとされる酪酸産生菌フェカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)と、その菌に感染するファージがともに減っていたことです。
さらにファージと宿主細菌の関係を詳しく調べると、増えていたR. グナバスを攻撃するファージの働きが弱まっていました。ウイルスによる「歯止め」が効きにくくなり、増えてほしくない菌が増えやすい状態になっていた可能性が示唆されます。加えて、硫黄を含むアミノ酸の代謝に関わる補助的な遺伝子が失われ、便中の胆汁酸のバランスにも乱れがみられました。つまり、細菌・ウイルス・代謝物・胆汁酸が一本の軸としてつながり、その軸ごと崩れていたと考えられます。
注意したいのは、この研究が特定の一時点で患者と健康な人を比べた観察研究であり、腸内環境の乱れが脂肪肝の「原因」なのか「結果」なのかまでは決められない点です。それでも、脂肪肝を細菌単独ではなく生態系全体の問題としてとらえる視点は、今後の予防や治療のヒントになりそうです。
日常生活への示唆として、まず押さえておきたいのは、減っていたF. プラウスニッツィのような酪酸産生菌が、食物繊維をエサに増えるという点です。野菜、豆類、全粒穀物、海藻など多様な繊維を意識してとることは、こうした菌を支える現実的な一歩と言えます。また、脂肪肝は体重・血糖・中性脂肪の改善で進行を抑えやすいことが知られており、腸内環境の視点からも、食事の質を整え、適度な運動を続けることの意義があらためて裏づけられたと考えられます。特別なサプリメントに頼る前に、腸に住む多様な生き物たちを「食事で養う」という発想を持っておきたいところです。
出典 論文タイトル: Multi-kingdom profiling reveals altered gut phage-bacteria-metabolite interactions in MASLD 掲載誌: Nature Communications(2026年) DOI: 10.1038/s41467-026-71981-0
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