便潜血検査の「残り」から腸内細菌を読む

大腸の前がん病変を見分ける新しい手がかり

調査レポート
便潜血検査の「残り」から腸内細菌を読む——大腸の前がん病変を見分ける新しい手がかり

大腸がん検診でおなじみの便潜血検査は、便に混じるごくわずかな血液を捉える簡便な検査です。ただ、陽性と出た人が全員がんというわけではなく、その後の大腸内視鏡で腫瘍が見つからない人も少なくありません。「陽性のうち、本当に内視鏡を急ぐべき人は誰か」を見分けられないか。この問いに、検査に使った容器の中に残った便から腸内細菌を読み取るという発想で挑んだ研究が、2026年7月23日にNature Communicationsで発表されました。

研究の概要

対象となったのは、ノルウェーの住民ベースの大腸がん検診プログラムに参加し、便潜血検査(FIT)が陽性となった1,034人です。研究チームは、検診で提出されたFIT容器の残余検体からDNAを抽出し、ショットガンメタゲノム解析によって腸内細菌の種類と機能を網羅的に読み取りました。そのうえで、後日実施された大腸内視鏡の結果、すなわち大腸がん、前がん病変、腫瘍以外の所見という区分と、腸内細菌のプロファイルを突き合わせています。

注目すべきは、研究のために別途便を集めたのではなく、すでに全国規模で回収されている検診検体をそのまま使っている点です。この方式であれば、大きな集団を現実的なコストで調べられます。

わかったこと

第一に、腸内細菌のプロファイルを便潜血検査の定量値(便に含まれるヘモグロビン量)と組み合わせると、前がん病変の検出が、便潜血の数値だけを最適化した場合よりも改善しました。年齢や生活習慣といった大腸がんの既知のリスク因子を統計的に調整しても、この上乗せの効果は残ったと報告されています。

第二に、がんそのものの検出については、便潜血検査の数値のほうが優れていました。腸内細菌の情報が生きるのは、すでに成立したがんを見つける場面ではなく、その手前の段階を拾い上げる場面だという整理になります。

第三に、細菌の顔ぶれにも違いが見られました。大腸がんの人ではFusobacterium nucleatumとPeptostreptococcus stomatisが増えており、これは過去の研究とも一致する所見です。一方、腫瘍が見つからなかった人ではHungatella hathewayi、Clostridium symbiosum、そして毒素遺伝子pksを持たない大腸菌が多いというパターンが見られました。これまで大腸がんと関連づけて語られてきた菌の一部が、検診という集団の中では異なる振る舞いをする可能性が示唆されています。

第四に、腸内細菌との関連は、主に肛門に近い側、すなわち遠位大腸の病変に集中していました。大腸は右側と左側で発がんの経路が異なることが知られていますが、その違いが腸内細菌の側にも表れている可能性があります。

日常生活への示唆

まず押さえておきたいのは、この結果が「腸内細菌を調べれば内視鏡を省ける」という段階のものではないという点です。現時点では研究レベルの知見であり、便潜血検査で陽性と言われたら大腸内視鏡を受けることが、今も最も確実な行動です。

そのうえで、日常に持ち帰れることが二つあります。一つは、検診を受けること自体の価値です。便潜血検査は負担が小さく、しかもその検体が将来の医療を良くする研究資源にもなり得ることが、今回具体的に示されました。もう一つは、腸内細菌が漠然とした健康論の対象ではなく、大腸の病変という具体的な結果と結びつけて検証される段階に入っているという事実です。なお、今回がんで増えていた二つの菌は、もともと口の中に多く存在する菌としても知られています。腸内環境を整える食事とあわせて、口腔ケアにも目を向ける意味はありそうです。

将来、便潜血検査に腸内細菌の情報を上乗せして「内視鏡を優先すべき人」を絞り込めるようになれば、限られた内視鏡の枠をより必要な人に回せます。今回の研究は、そのための最初の一歩と言えます。

出典

論文タイトル: Microbiome signatures for detection of colorectal lesions in population-based FIT screening 著者: Einar E. Birkeland, Ane S. Kværner, Ekaterina Avershina ほか(責任著者: Trine B. Rounge) 掲載誌: Nature Communications(2026年7月23日公開) DOI: 10.1038/s41467-026-75962-1 URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-75962-1

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