膀胱と腸、二つの「すみか」を同時にたたく

繰り返す尿路感染症にファージ療法と便微生物移植を組み合わせた試み

調査レポート
膀胱と腸、二つの「すみか」を同時にたたく——繰り返す尿路感染症にファージ療法と便微生物移植を組み合わせた試み

膀胱炎を何度も繰り返す方は少なくありません。抗菌薬を飲めばいったん治まるものの、数か月後にまた同じ症状が戻ってくる、という悩みは特に女性に多く見られます。2026年7月30日にNature Microbiologyでオンライン公開された報告は、この繰り返しに対してこれまでとまったく違う角度から挑んだ内容でした。

なぜ膀胱炎は繰り返すのか

再発を繰り返す尿路感染症の多くは、大腸菌によって引き起こされます。近年の研究では、原因となる大腸菌が尿路だけでなく腸の中にも潜んでおり、そこから繰り返し尿路へ送り込まれている可能性が指摘されています。つまり膀胱側だけを抗菌薬でたたいても、腸という供給源が残っていれば再発しやすい、という考え方です。

二つの場所を同時に狙う

研究チームが選んだのは、細菌だけに感染して殺すウイルスであるバクテリオファージと、健康な提供者の腸内細菌を移植する便微生物移植(FMT)を組み合わせるという方法でした。ファージで尿路側の細菌を減らし、FMTで腸内細菌のバランスを整えることで、両方の「すみか」に同時に働きかけることをねらっています。

対象となったのは、繰り返す尿路感染症を抱える3人の女性です。8日間にわたって、ファージを内服と膀胱内への注入の両方で投与し、うち2人はその後にFMTを受けました。

治療はいずれも忍容性が良好で、問題となる有害事象は報告されていません。治療後の検体からは大腸菌そのものは検出され続けましたが、24か月の追跡期間中、尿路感染症のエピソードがまったく起こらなかったか、起きても回数が減り症状が軽くなったことが示されました。

ただし、これはわずか3人の症例をまとめた報告であり、比較対照群はありません。効果が証明されたわけではなく、現時点では「安全に実施でき、有望な変化が観察された」という段階として受け止める必要があります。

日常生活への示唆

この報告から読み取れる第一の点は、菌をゼロにすることだけが目標ではない、という視点です。今回も大腸菌は消えていませんが、症状は明らかに軽くなりました。細菌との付き合い方を変えるという発想は、感染症対策の考え方を少しずつ広げていくと思われます。

もう一つは、腸内環境が腸以外の臓器の不調とつながっている可能性です。繰り返す膀胱炎に悩んでいる場合、水分を十分にとる、排尿を我慢しすぎないといった基本的な対策は引き続き大切ですが、年に何度も再発するようであれば、自己判断で市販薬を続けるのではなく、泌尿器科で原因菌や背景要因を確認してもらうことをおすすめします。抗菌薬を必要以上に繰り返すことは、効きにくい菌を増やす一因にもなります。

将来的には、腸内環境を整えることが尿路の感染予防につながる、という発想が現実的な選択肢になるかもしれません。今回の報告は、その可能性を人で確かめた最初の一歩と言えます。

出典

論文タイトル: Combined phage therapy and faecal microbiota transplantation to treat recurrent urinary tract infection: a case series 著者: McCallin S, Classen AY, Lieberknecht-Jouy SC, ほか(責任著者 Biehl LM) 掲載誌: Nature Microbiology(2026年8月号、オンライン公開2026年7月30日) DOI: 10.1038/s41564-026-02409-0

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