歳を重ねると、はっきりした病気がなくても体のあちこちで弱い炎症がくすぶり続けます。この「炎症老化」は、心臓病や認知症、フレイルといった加齢性疾患の共通の土台になると考えられてきました。しかし、その火元がどこにあるのかは長くわかっていませんでした。カリフォルニア大学バークレー校などの研究チームは、起点が骨髄にある造血幹細胞にある可能性を示し、2026年7月16日付でNature Agingに報告しました。
「訓練免疫」が、老化では裏目に出る
私たちの免疫には、感染などの刺激を受けたあとに反応性を高めたまま維持する「訓練免疫」という仕組みがあります。この状態は骨髄の造血幹細胞で始まり、そこから生まれる骨髄系の細胞、たとえばマクロファージなどが主に担っています。本来は病原体から身を守るために役立つ仕組みです。
研究チームが注目したのは、SIRT3というミトコンドリア内で働く脱アセチル化酵素です。SIRT3は造血幹細胞に豊富に存在しますが、加齢とともに減っていくことが示されました。そしてマウスの解析から、SIRT3は加齢に対する造血幹細胞の反応を抑える役割を持ち、これが失われると、訓練免疫が不適応な形で暴走し、慢性炎症と組織の機能低下につながることが明らかになりました。つまり、本来は守るための仕組みが、老化の過程では裏目に出てしまう可能性が示されたことになります。
幹細胞を整えたら、離れた臓器まで改善した
さらに印象的なのは、その先の実験です。造血幹細胞でSIRT3を強く働かせたマウスでは、造血幹細胞そのものの加齢性の衰えが和らいだだけでなく、離れた組織の機能まで改善しました。具体的には、加齢に伴う認知機能と運動能力の低下が緩和されたと報告されています。その仲立ちをしていたのは、炎症のプログラムが調整された骨髄系の細胞でした。
血液をつくる幹細胞の状態が、免疫細胞を経由して、脳や体の動きの老い方まで左右していた可能性があるということです。研究チームは、造血幹細胞を標的とする治療の応用範囲が、血液の病気だけでなく、加齢による全身の機能低下や健康寿命の延伸にも広がりうると述べています。
日常生活への示唆
まず前提として、これはマウスを対象とした研究であり、遺伝子操作でSIRT3を増やした実験です。ヒトでSIRT3を安全に高める方法が確立したわけではありませんし、特定のサプリメントで同じ効果が得られると示されたわけでもありません。この点は誇張せずに受け止める必要があります。
それでも、考え方として役に立つ点があります。慢性炎症は老化の「結果」として現れるだけでなく、老化を前に進める「原因」の側にも立っている可能性が示された点です。であれば、日々の生活で炎症を余計に高めないことには意味があると考えられます。定期的な運動習慣を持つこと、睡眠を削らないこと、禁煙すること、歯周病や虫歯を放置せずに治療すること、体重を適正に保つことなどは、いずれも慢性的な炎症負荷を下げる方向に働きます。
健康診断でCRPなどの炎症マーカーが慢性的に高めに出ている場合は、その背景に何があるのかを一度確認しておくとよいでしょう。「年齢のせい」で片づけずに向き合うことが、これからの予防医学ではより重要になっていきそうです。
出典
論文タイトル: Trained immunity links hematopoietic stem cell aging to aging-associated inflammation 著者: Wei-Chieh Mu, Marine Barthez, Yufan Feng, Yibing Chen, Chih Ling Wang ほか(責任著者: Danica Chen, Mihai G. Netea) 掲載誌: Nature Aging(2026年7月16日オンライン公開) DOI: 10.1038/s43587-026-01175-2
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