若くして椎間板が傷む人に何が起きているのか

生後4週のマウスの背骨には、すでに「老化細胞」が溜まっていました

調査レポート
若くして椎間板が傷む人に何が起きているのか——生後4週のマウスの背骨には、すでに「老化細胞」が溜まっていました

腰痛は世界で最も多くの人の生活を制限している症状のひとつです。その背景には椎間板の変性がしばしばあり、椎間板が傷んでいる人は腰痛を起こしやすいことが知られています。ただ、椎間板の変性は高齢者だけの問題ではありません。若いうちから椎間板が傷み、ヘルニアに至る人が一定数います。その「若年性」の変性がなぜ起こるのかについて、Nature系列のBone Researchに新しい報告が掲載されました。

遺伝的に椎間板が早く傷むマウス

研究チーム(Thomas Jefferson University、Emanuel J. Novais氏、Makarand V. Risbud氏ら)が使ったのは、SM/Jという系統のマウスです。このマウスは遺伝子操作も椎間板への外傷も加えていないのに、自然に椎間板の変性が進み、生後17週の時点でヒトの変性の主な特徴を再現します。加齢に伴うヘルニアや腰の痛みを起こす点でも、ヒトに近いモデルとされています。

驚いたのは、その始まりの早さでした。生後わずか4週の時点で、SM/Jマウスの椎間板には老化細胞の目印であるp19やp21がすでに多く存在していました。比較対象のC57BL/6Jというマウスでは、これらの目印が現れるのは生後18〜24か月です。つまり、遺伝的に変性しやすい個体では、体が若いうちから椎間板の細胞だけが先に「老け込んで」いた可能性が示されました。

老化細胞を減らす薬で、変性が和らいだ

そこでチームは、老化細胞に働きかける2種類の薬を試しました。ひとつはダサチニブとケルセチンの組み合わせ(DQ)、もうひとつはナビトクラクスです。生後4週から17週まで、週1回の腹腔内投与を続けました。

結果は対照的でした。DQを投与したマウスでは、重度に変性した髄核と線維輪の割合が約25%減っていました。髄核にコラーゲンが沈着して線維化していた椎間板も約25%少なく、老化の目印であるp19やp21、そして老化細胞が撒き散らす炎症物質(IL-6、MMP13、TGF-βなど)も低下していました。細胞の死が減り、髄核の細胞らしさを示すCA3やGLUT1が保たれていた点も注目されます。血液中の炎症性たんぱく質MIP-2やMCP-1も下がった一方で、椎骨の骨量にはほとんど影響がありませんでした。

一方、ナビトクラクスを全身投与したマウスでは、変性も老化の状態も改善しませんでした。老化細胞を狙う薬であれば何でも効くわけではなく、どの臓器にどの薬をどう届けるかが結果を分けることが示唆されています。

さらにチームは、実際に変性したヒトの髄核細胞を使って、JUNという情報伝達経路を阻害する実験も行いました。すると、DQを加えたときと同じように細胞老化と炎症が減りました。マウスとヒトの両方でJunbという遺伝子が共通の標的として浮かび上がっており、若年性の変性を狙う手がかりになると考えられます。

私たちが受け取れること

ここで大切なのは、これがマウスと培養細胞の研究であり、痛みそのものは評価されていないという点です。DQはヒトでの臨床試験が進む段階の治療であって、自分で試すものではありません。ケルセチンはサプリメントとしても売られていますが、この研究の投与量や投与経路はまったく異なりますので、同じ効果を期待しないでください。

それでも、この研究は考え方をひとつ変えてくれます。若い人の椎間板の傷みを「使いすぎ」や「姿勢の悪さ」だけで説明するのではなく、細胞レベルの老化と慢性的な炎症が早い段階から関わっている可能性が見えてきました。だからこそ、若いうちからの腰の違和感を年齢のせいと決めつけずに整形外科で相談すること、そして睡眠・運動・禁煙・体重管理といった全身の炎症を高めない生活を早めに整えておくことに、あらためて意味があると言えます。将来、椎間板の変性そのものを遅らせる薬が登場する日に向けて、土台を整えておく時期なのだと思います。

出典

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