「筋肉の痛み」なのに、原因は脳にあった

256万人の遺伝子解析が線維筋痛症の正体を突き止めた

調査レポート
「筋肉の痛み」なのに、原因は脳にあった——256万人の遺伝子解析が線維筋痛症の正体を突き止めた

全身の筋肉が痛む線維筋痛症は、長いあいだ「原因のよくわからない病気」として扱われてきました。痛む場所は筋肉なのに、検査をしても筋肉にも関節にも異常が見つからないためです。2026年7月28日にNature Medicineへ掲載された研究は、約256万人分の遺伝情報を解析し、この病気の主戦場が筋肉ではなく神経系であることを遺伝学的に示しました。

256万人を調べて見つかった26カ所

研究チームは11のコホートから集めた2,563,755人分のデータを統合し、線維筋痛症と診断された54,629人と対照群2,509,126人を比較するゲノムワイド関連解析を行いました。その結果、線維筋痛症のリスクに関わるゲノム上の26カ所が同定されています。

最も強く関連していたのは、ハンチントン病の原因遺伝子として知られるHTT遺伝子上の変異でした。この変異を持つ人は線維筋痛症になる確率が約9%高いと報告されています。ただしハンチントン病を引き起こす繰り返し配列の異常とは別物であり、条件をそろえて解析するとハンチントン病との関連は消えたと述べられています。ほかにも、痛みの神経の興奮しやすさを抑えるCELF4、神経の配線を導くDCC、シナプスの働きに関わるMDGA2やCAMKVなど、神経に役割を持つ遺伝子が次々と挙がりました。

遺伝的な素因は、脳にだけ集まっていた

さらに印象的なのは、遺伝率がどの組織に集中しているかを調べた解析です。統計的に有意だった組織は5つとも脳の領域であり、細胞種でも13種のうち12種が神経細胞でした。免疫細胞やグリア細胞への集中は見られていません。最も強く関連したのは記憶と感覚の文脈づけに関わる海馬歯状回の神経細胞で、次いで腸の動きと感覚を司る腸管神経でした。

併存しやすい病気との遺伝的な重なりも大きく、筋痛症(0.82)、腰痛(0.75)、関節痛(0.81)に加えて、心的外傷後ストレス障害(0.78)や過敏性腸症候群(0.70)とも高い相関が示されました。一方で自己免疫疾患との相関は関節リウマチで0.33、シェーグレン症候群で0.39にとどまり、免疫の中枢であるMHC領域にも信号は出ていません。線維筋痛症は主として自己免疫の病気ではない可能性が高いと考察されています。

なお患者の87.7%は女性でしたが、男女の遺伝的な構造はほぼ同一(相関1.03)でした。女性に多い理由は、遺伝子そのもの以外の要因にありそうだと示唆されています。

私たちの生活への示唆

この結果が伝えているのは、痛む場所と原因の場所は必ずしも一致しないということです。筋肉が痛むからといって、原因が筋肉にあるとは限りません。慢性的な全身の痛みが続くとき、揉む・冷やす・炎症を抑えるといった筋肉に向けた対処だけで改善しないのは、当人の努力不足ではなく、痛みを処理する神経系の側に理由があると考えられます。

もうひとつは、併存症を切り離さない視点です。腰痛、過敏性腸症候群、睡眠の問題、強いストレス体験が同じ人に重なるのは偶然ではなく、共通の神経系の背景を持つ可能性が示されました。診療科をまたいで別々に扱うより、まとめて相談したほうが実態に合っているかもしれません。

原因不明の痛みを「気のせい」と片づけられてきた人にとって、この研究は明確な生物学的裏づけになります。長引く痛みは、我慢の対象ではなく相談の対象です。

出典

論文タイトル: The genetic architecture of fibromyalgia across 2.5 million individuals 掲載誌: Nature Medicine(2026年7月28日公開) DOI: 10.1038/s41591-026-04492-6 著者: Isabel Kerrebijn, Gyda Bjornsdottir, Keon Arbabi ほか(計53名) URL: https://www.nature.com/articles/s41591-026-04492-6

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