食物アレルギーは原因食品を避けるしかない、という前提が少しずつ揺らいでいます。米ボストン小児病院のグループは、健康な提供者の腸内細菌をカプセルで飲む治療を重いピーナッツアレルギーの成人に試み、一部の参加者で反応せずに食べられる量が増えたと報告しました。2026年8月5日にScience Translational Medicineへ掲載された研究です。
15人の成人に、健康な人の腸内細菌を飲んでもらう
対象になったのは、ピーナッツたんぱく質100ミリグラム以下というごく微量で症状が出る成人15名です。ピーナッツ1粒に含まれるたんぱく質は200ミリグラム程度とされますので、半粒に満たない量で反応してしまう重いアレルギーの方々になります。
試験は安全性の確認を主目的とした第1相の非盲検試験(試験番号NCT02960074)です。参加者は、食物アレルギーのない健康な提供者の便から厳重な検査を経て調製された腸内細菌を、凍結カプセルの形で2日間かけて服用しました。15名のうち10名は腸内細菌移植(FMT)だけを受け、残り5名は移植の前に抗菌薬でもともとの菌をいったん減らしています。
結果として、ピーナッツに反応する閾値が上昇した参加者は、抗菌薬なしの群で10名中3名、前処置ありの群で5名中3名、合わせて15名中6名でした。研究チームの発表によれば、反応した人たちは半粒程度で症状が出ていた状態から、1〜2粒以上を食べても反応しないところまで閾値が上がり、効果は4か月後も保たれていたとされています。重大な安全性の問題は認められませんでした。
鍵を握っていたのは「胆汁酸」だった
効果が見られた参加者では、アレルギー反応を抑える側に働くRORγt陽性の制御性T細胞が増え、アレルギー反応を駆動するTh2細胞が減っていました。免疫のバランスが、耐性を許す方向へ傾いたことになります。
さらに研究チームは、反応が改善した人の腸内細菌をマウスへ移植する実験を行いました。そのマウスは食物アレルギーの発症から守られ、腸内でBacteroides属の細菌が増えていました。ヒトでもマウスでも、守られた側では胆汁酸の代謝物が増えていた点が共通しています。
決め手はその先の実験です。保護作用の候補となったBacteroidesから、胆汁酸を分解する胆汁酸塩加水分解酵素(BSH)の遺伝子を取り除くと、マウスでのアレルギー抑制効果は失われました。細菌そのものではなく、細菌がつくり出す胆汁酸代謝物が免疫を落ち着かせている、という筋道が示されたことになります。
私たちが今日から意識できること
まず強調したいのは、これが15人規模の第1相試験であり、便微生物移植を自己判断で試すことは絶対にできないという点です。提供者の感染症検査や菌叢の適合性など、専門施設でなければ担保できない工程が何重にも入っています。食物アレルギーの方は、これまでどおり原因食品の回避とエピペンなどの備えを続けてください。
そのうえで、この研究は2つのことを教えてくれます。ひとつは、食物アレルギーが体質だから変わらないものとは限らず、腸内環境を通じて動かせる余地があると示唆された点です。もうひとつは、抗菌薬の前処置で効きやすくなったという結果の裏返しで、抗菌薬が腸内細菌の構成を大きく動かす力を持つという事実です。風邪などのウイルス感染に抗菌薬は効きませんので、処方された場合は必要性を確認し、飲み残しの使い回しは避けたいところです。
研究チームは現在、より濃縮した菌の製剤や、ピーナッツの経口免疫療法との併用を検討する試験を進めているとしています。腸内細菌を整えることがアレルギー治療の選択肢になる日は、近づいていると言えます。
出典
論文タイトル: Fecal microbiome transplant in food allergy in humans and mice identifies a role for bile acid metabolites in oral tolerance 掲載誌: Science Translational Medicine(2026年8月5日公開) 著者: Rima Rachid, Monica Martinez-Blanco ほか(計36名) DOI: 10.1126/scitranslmed.aee3263
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