肥満の腸では「がんを抑える物質」が減っていた

腸内細菌がつくるGABAと大腸がんの意外な関係

調査レポート
肥満の腸では「がんを抑える物質」が減っていた——腸内細菌がつくるGABAと大腸がんの意外な関係

肥満が大腸がんのリスクを高めることは、疫学的にはよく知られています。ただし、その「あいだ」で体の中に何が起きているのかは、長らくはっきりしていませんでした。Nature Communicationsに2026年7月27日付で掲載された研究は、その空白を埋める答えの一つとして、腸内細菌がつくる神経伝達物質GABA(ギャバ)の減少を挙げています。

肥満の大腸がんでは、ある代謝の要が落ちていた

研究チームはまず、治療前の大腸がん患者の腫瘍組織を比べました。BMIが30以上の肥満を伴う患者では、BMIが25未満の患者に比べて、解糖系の中間代謝物であるGAP(グリセルアルデヒド3リン酸)と、それを生み出す酵素TPI1が有意に少なくなっていました。TPI1のmRNAの比較は、肥満のない患者71人と肥満のある患者80人で行われています。

次に行われたのが便の移植実験です。肥満を伴う大腸がん患者の便をマウスに移植すると、標準体重の患者の便を移植したマウスよりも大腸と小腸の腫瘍数が増え、腫瘍のTPI1も低下しました。腸内細菌そのものが、がんの進行を後押ししうることが示唆されます。

鍵を握っていたのは、GABAをつくる常在菌でした

メタゲノム解析では、肥満に伴う大腸がんで13種類の細菌が減っており、そのなかで存在量が最も多かったのがBacteroides ovatus(バクテロイデス・オバタス)という常在菌でした。この菌はGABAをつくる能力が高いことで知られています。実際、少人数の比較ではありますが、肥満のある患者の便ではGABA濃度が低下していました。

因果関係を確かめる実験も行われています。腸に腫瘍ができやすい遺伝子改変マウスに高脂肪食を与えると腫瘍が増えましたが、B. ovatusを毎日経口投与すると腫瘍の数が有意に減りました。決め手になったのは、GABA合成酵素の遺伝子gadBを欠損させたB. ovatusでの検証です。この変異株は腸への定着能力は保たれていたにもかかわらず、抗腫瘍効果はほとんど失われました。GABAそのものを飲ませた場合も腫瘍は抑えられ、体重や血糖値には影響しませんでした。

仕組みとしては、GABAが腸の上皮細胞にあるGABA-B受容体を刺激し、PI3K-HIF1α経路を介してTPI1を増やし、その結果たまったGAPが、がんの増殖を促すYAPというシグナルの活性化を抑える、という流れが示されています。

明日からできること

注意しておきたいのは、この研究の中心がマウスと患者由来オルガノイドによる実験であり、ヒトのデータは観察的で人数も限られている点です。市販のGABAサプリメントが大腸がんを予防する、という結論は今回のデータからは導けません。

それでも押さえておきたい点が三つあります。一つ目は、体重管理が代謝だけの問題ではなく、腸内細菌の顔ぶれを通じて大腸の環境そのものを変えている可能性があるということです。二つ目は、高脂肪食が腫瘍形成を加速させたという結果です。三つ目は、B. ovatusを含むバクテロイデス属が食物繊維を発酵させて育つ菌であることです。野菜、豆類、全粒穀物、海藻といった繊維源を毎食のどこかに置く習慣は、こうした菌の居場所を守る現実的な方法と言えます。

そして、肥満がある方ほど大腸がん検診の価値は高くなります。腸内細菌への介入はまだ研究段階ですが、便潜血検査や大腸内視鏡はいま使える確かな手段です。

出典

論文タイトル: Obesity-driven microbial GABA depletion promotes metabolic rewiring and colorectal cancer progression 著者: Wei Guo, Kaiyue Sun, Xia Wang ほか(計21名) 掲載誌: Nature Communications(2026年7月27日公開) DOI: 10.1038/s41467-026-76079-1 URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-76079-1

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