赤ちゃんの腸内細菌は、母乳でも産道でもなく「母親の腸」から来ていた

714組の母子を1年追った大規模研究

調査レポート
赤ちゃんの腸内細菌は、母乳でも産道でもなく「母親の腸」から来ていた——714組の母子を1年追った大規模研究

生まれたばかりの赤ちゃんの腸には、どこから細菌がやってくるのでしょうか。産道、母乳、皮膚と候補はいくつも挙げられてきましたが、実際に何が主な供給源なのかは長らくはっきりしていませんでした。2026年8月12日、オランダの出生コホートを使った大規模研究がNatureに掲載され、その答えとして「母親の腸」が浮かび上がりました。

4,526検体を1年間追いかけた研究

研究チームは、オランダの出生コホートLifelines NEXTに参加した714組の母子から、妊娠12週から産後1年までにわたって4,526件の便検体を集め、メタゲノム解析を行いました。さらに母乳と腟の細菌叢を超高深度で解読し、474項目の臨床情報や曝露データと突き合わせています。

まず分かったのは、母親自身の腸内細菌叢は妊娠中も産後も、思ったほど大きくは変わらないという点です。変化に関わっていたのは食事、感染症、そして妊娠前の喫煙でした。

次に、菌を「株(ストレイン)」のレベルまで見分けて母子を比べたところ、母親の腸が赤ちゃんの腸内細菌の主要な供給源であることが示されました。母子で共通して検出された菌のうち、同じ株を共有していた割合は中央値で33%に達しました。血縁のない母子の組み合わせでは中央値0%ですから、偶然では説明できない数字です。一方で、母乳や腟から株が受け渡される例は散発的にしか観察されませんでした。株の共有率は月齢とともに下がっていき、赤ちゃんの腸がやがて独自の生態系へ移っていく様子もとらえられています。

母親の腸内細菌が、赤ちゃんの湿疹と関連していた

もうひとつ注目されるのが、湿疹(アトピー性皮膚炎)との関連です。生後1年以内に湿疹を発症した赤ちゃんの母親では、腸内細菌の多様性が有意に低いという結果が得られました。喫煙歴やアレルギー疾患の家族歴を調整しても、この関連は残っています。

出産時の母親の腸内細菌データから赤ちゃんの湿疹を予測するモデルを組んだところ、菌の構成を使った場合でAUCが0.74、多様性の指標だけでも0.68という値が出ました。個別の菌ではDialister invisusという菌が、湿疹リスクの低さと最も強く結びついていました。ただしこれは関連が示された段階であり、因果関係が証明されたわけではありません。

日常生活への示唆

赤ちゃんの腸内細菌に最も大きく効いていたのは、出産方法と授乳方法でした。母乳で育った赤ちゃんでは、母乳に含まれる糖鎖やムチンを分解する酵素と、酢酸をつくる経路が豊富になっていました。母乳栄養の赤ちゃんのほうが、母親との株の共有が多いことも示されています。

ここで注意したいのは、多様性が高いほど良いとは限らないという点です。この研究では、経腟分娩の赤ちゃんや人工乳の赤ちゃんのほうが、帝王切開や母乳の赤ちゃんより多様性が高いという結果でした。乳児期の腸はビフィズス菌など少数の菌が主役を務める時期であり、大人と同じものさしは当てはまりません。

明日からできることとして挙げられるのは、妊娠を考える段階から母親自身の腸内環境に目を向けておくという視点です。食事と喫煙が母親の腸内細菌に関わっていたことを踏まえれば、禁煙と食物繊維を意識した食事は理にかなった選択と言えます。出産方法は医学的な事情で決まるものですから、無理に選ぶ話ではありません。母と子の腸はつながっているという事実を知っておくだけでも、妊娠期の過ごし方への見方が少し変わるのではないでしょうか。

出典

論文タイトル: Maternal influences on infant gut microbiome and health 掲載誌: Nature 著者: Trishla Sinha, Siobhan Brushett, Asier Fernández-Pato ほか(計38名) 公開日: 2026年8月12日 DOI: 10.1038/s41586-026-10922-9 URL: https://www.nature.com/articles/s41586-026-10922-9

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