抗生物質のマクロライド系は、感染症を治すためだけでなく、慢性の呼吸器疾患で炎症を抑える目的でも長期に使われています。しかし菌を殺す力を持ったまま何か月も飲み続ければ、腸内細菌が乱れ、耐性菌が増える懸念がついて回ります。そこで「炎症を抑える力だけを残し、菌を殺す力を捨てた薬」が開発され、その腸内細菌への影響を調べた試験結果がNature Communicationsに掲載されました。
抗菌作用のないマクロライドという発想
アジスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質には、細菌を殺す働きとは別に、免疫を調節して炎症を鎮める働きがあることが知られています。このため慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支拡張症では、増悪を減らす目的で少量を長期に服用する使い方が行われてきました。効果は認められる一方で、必要のない抗菌圧を体内にかけ続けることになります。
グラスマシナル(開発コードEP395)は、この矛盾を解こうとして設計された経口マクロライドです。試験管内での抗菌活性はほとんどなく、免疫調節作用だけを残すことが狙われています。
健康な成人17人の便を4回集めて追跡
カロリンスカ研究所などの研究チームは、スウェーデンで実施された臨床薬理試験に参加した健康成人17人(18〜55歳、年齢中央値34歳)から集めた便62検体を解析しました。参加者はグラスマシナル375mgを毎日2週間服用し、服用開始前に2回、服用1週間後と2週間後にそれぞれ便を提供しています。
結果は「変化はあるが、抗生物質のような崩壊ではない」というものでした。菌の系統的な多様性は服用後に有意に低下しました(p<0.0001)が、菌の量的な偏りを表す均等度は変わりませんでした。細菌叢全体のうち服用によって説明された構成の変化は、1週間後で約10%、2週間後で約6%にとどまっています。
培養して菌数を数える方法では、はっきり減ったのは腸内細菌目だけでした。バクテロイデス、腸球菌、乳酸桿菌の菌数は変化していません。さらに重要な点として、アジスロマイシンに耐性を持つ菌の増加は認められず、カンジダやクロストリジオイデス・ディフィシルが増えることもありませんでした。腸の主要な嫌気性菌群も保たれています。
興味深いことに、減ったのはアッカーマンシアやサッテレラなど腸の粘膜側に住む菌で、逆にビフィドバクテリウムやブラウティアなど短鎖脂肪酸をつくる発酵菌は増えていました。研究チームはこれを群集の破壊ではなく、住み場所の再配置にあたる変化だと解釈しています。
日常生活への示唆
この研究から明日すぐ変えられる習慣が生まれるわけではありませんが、薬の見方を整える手がかりにはなります。
炎症を抑える目的で抗生物質を長期に服用している方は、腸内細菌への影響が処方の判断材料のひとつになっていることを知っておくとよいと思われます。気になる点があれば自己判断で中断せず、主治医に相談してください。また、抗菌薬は必要な場面に絞って使うという原則は、この薬が実用化されても変わりません。
この試験の限界
参加者はわずか17人で、プラセボ対照が置かれておらず、実際に想定されている対象であるCOPD患者ではなく健康な成人が対象でした。服用期間も2週間と短く、中止後に腸内細菌が戻るかを追う採便も行われていません。研究チーム自身が結果を予備的なものと位置づけ、プラセボ対照でより長期に観察する試験が必要だと述べています。抗菌作用を切り離した薬という発想が確かめられるかどうかは、これからの検証にかかっていると言えます。
出典
論文タイトル: Impact of the anti-inflammatory macrolide glasmacinal on the gut microbiota of healthy adults: an open-label trial 著者: Tsegaye Sewunet, Mohammad Razavi, Kate Hanrott, Virginia Norris, Jennifer Kricker, Christian G Giske 掲載誌: Nature Communications(2026年8月20日公開) DOI: 10.1038/s41467-026-76867-9
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