健康診断でおなじみのコレステロール、中性脂肪、血糖、尿酸。これらの数値は「基準値内かどうか」で語られがちですが、実はそれ自体が老化を進める側にまわっている可能性が示されました。中国の3施設で10万人以上を調べた研究が、2026年8月25日にNature Agingに掲載されています。男女で老い方の軌跡が異なること、そしてその違いが中年期に最も大きくなることが明らかになりました。
172項目の健診データから「体の年齢」を推定する
研究チームは、中国の北京・南昌・衢州の3施設で実施された多施設共同研究(Multicentric Chinese Aging Study)のデータを解析しました。対象は18歳から98歳までの10万人以上で、血液検査や画像検査など172項目の臨床指標が使われています。
チームはこのデータから、男女それぞれに専用の「臨床老化時計」を構築しました。健診の数値だけから、その人の体が何歳相当かを推定する仕組みです。
ここで見えてきたのが、男女の軌跡の違いでした。若い年代では男女の生理的な指標がはっきり分かれているのに対し、年齢が上がるにつれてその差は次第に小さくなり、高齢期には重なっていきます。つまり老化のスピードや道すじには性差があり、それは中年期に最も際立つと考えられます。
「老化を進める物質」の正体
さらにチームは、加齢とともに体内に蓄積していく因子を網羅的に調べました。浮かび上がったのは、LDLコレステロール、中性脂肪、血糖、尿酸といった代謝関連の指標と、CEAやHE4といった腫瘍マーカーでした。
注目すべきは、これらが単なる「結果」ではなかった点です。ヒトの血管内皮細胞にLDLや血糖、尿酸を加える実験を行ったところ、細胞老化を示す変化が実際に現れました。老化細胞の目印となる染色が増え、炎症性物質であるIL-6の分泌や、血管壁への白血球の接着が高まったのです。健診で上がっている数値そのものが、血管の細胞を老けさせている可能性が示唆されます。
一方で、糖尿病薬メトホルミンを一緒に加えると、血糖による細胞老化の変化が抑えられました。また高脂肪食を与えたマウスの食事を元に戻す実験でも、代謝の負荷による老化が改善する方向に動きました。蓄積した負荷は、後からでも減らせる余地があると考えられます。
日常生活への示唆
この研究が示すのは、「基準値をわずかに超えている程度だから様子見でよい」という判断を、少し見直してよいかもしれないということです。LDLコレステロール、中性脂肪、血糖、尿酸は、放置すれば病気になるという将来のリスクであると同時に、いま現在も血管の細胞に老化のシグナルを送り続けている可能性があります。
できることは、目新しいものではありません。健診結果を一度きりの数字ではなく、数年分並べて傾きを見ること。中年期は男女で老化の進み方が異なる時期にあたるため、この年代の変化にはとくに注意を払うこと。そして飽和脂肪や糖質のとりすぎを見直し、体を動かす習慣を取り戻すことです。マウスの実験で食事を戻すだけでも改善が見られたことは、遅すぎることはないという控えめな希望を示していると言えます。
なお本研究は中国の集団を対象とした横断研究が中心であり、この老化時計をそのまま日本人に当てはめられるかは今後の検証を待つ必要があります。
出典
論文タイトル: Sex-specific aging clocks from a large-scale human phenome reveal distinct aging transitions and circulating signatures 掲載誌: Nature Aging(2026年8月25日公開) DOI: 10.1038/s43587-026-01180-5 URL: https://www.nature.com/articles/s43587-026-01180-5
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