帯状疱疹ワクチンは、あくまで「あの激しい痛みを防ぐための注射」だと思われてきました。ところが2026年8月26日にNature Medicineへ掲載された研究は、ワクチンの種類によってその後7年間の心臓病の発症の重さが違っていた可能性を報告しています。日本でも2025年4月から65歳を対象に定期接種が始まり、2種類のワクチンから選べる状況にあるだけに、見過ごせない報告と言えます。
「たまたま切り替わった年」を利用した研究デザイン
ワクチンを打った人と打たなかった人を比べる研究には、どうしてもある弱点がつきまといます。ワクチンを打つ人はもともと健康意識が高く、運動や検診にも熱心である傾向があるため、その差がワクチンの効果に見えてしまうという問題です。
研究チームはこれを避けるため、米国で2017年10月に起きた出来事に着目しました。この時期を境に、帯状疱疹ワクチンが従来の生ワクチンから組換えワクチンへと急速に切り替わったのです。そこで、切り替え直前の2017年4月から9月に接種した人たち(98.6パーセントが生ワクチン)と、ちょうど1年後の2018年4月から9月に接種した人たち(93.5パーセントが組換えワクチン)を比較しました。同じ季節に、同じように「ワクチンを打とう」と考えて受診した人同士を比べる形になるため、健康意識の差が入り込みにくくなります。
対象は60歳以上で、米国の電子カルテネットワークTriNetXのデータから、年齢や持病、服薬など83項目でマッチングを行い、各群36,460人ずつを解析しています。
心不全は12パーセント、虚血性心疾患は10パーセント少なかった
7年間の追跡の結果、組換えワクチンを受けた群では、虚血性心疾患・心不全・虚血性脳卒中を合わせた心血管イベントの負担が9パーセント少なくなっていました。内訳を見ると、虚血性心疾患で10パーセント、心不全で12パーセント少なく、虚血性脳卒中については男性で12パーセント少ないという結果でした。心房細動も7パーセント少なくなっていました。
一方で、心筋炎、末梢動脈疾患、出血性脳卒中、一過性脳虚血発作では差が見られていません。また、この関連は追跡期間の前半で強く、後半では薄れていきました。
興味深いのは、この差が「帯状疱疹そのものを防いだから」では説明しにくいという点です。両群の帯状疱疹の発症率の差は追跡中間時点で0.5パーセント未満にとどまるのに対し、虚血性心疾患の差は1.5パーセントに達していました。研究チームは別の説明として、組換えワクチンに含まれるアジュバント(免疫を増強する添加物)AS01が単球という免疫細胞を長期的に作り変え、炎症物質インターロイキン6の反応を下げる可能性を挙げています。インターロイキン6を抑えることが心血管リスクの低下につながることは、すでに別の研究で示されています。
この結果をどう受け止めるか
大切なのは、これが因果関係を証明した研究ではないという点です。研究チーム自身も、電子カルテには収入や学歴、喫煙・食事といった生活習慣の情報が乏しく、測定されていない交絡要因を完全には否定できないと述べています。また、生ワクチンには心血管への効果がないという前提を置いた比較であることにも注意が必要です。今後の臨床試験による検証が求められています。
そのうえで、日本に住む私たちにとって実用的な意味はあります。日本の定期接種では、生ワクチンと組換えワクチン(シングリックス)のどちらも使えることになっており、接種を検討する際にどちらを選ぶかという場面が実際に生じます。接種回数や費用、副反応の出方も両者で異なるため、対象年齢に該当する方は、今回のような報告も含めてかかりつけ医と相談する価値があります。
そしてもう一つ、心臓を守る土台が食事・運動・血圧や血糖の管理にあることは変わりません。ワクチンの選択は、その土台に付け加える一手として考えるのが妥当と言えます。
出典
論文タイトル: Recombinant shingles vaccination and the risk of cardiovascular events 掲載誌: Nature Medicine(2026年8月26日公開) 著者: Fabiana Corsi-Zuelli, Fang Li, Rachel Upthegrove, John A Todd, Betty Raman, Paul J Harrison, Maxime Taquet DOI: 10.1038/s41591-026-04606-0 URL: https://www.nature.com/articles/s41591-026-04606-0
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