年齢を重ねると腸内細菌の顔ぶれが変わることは、これまでにも知られてきました。しかし、そのなかのどの菌が老化に直接かかわっているのかは、はっきりしていませんでした。2026年8月25日にNature Agingへ掲載された中国の研究チームの論文は、加齢とともに一貫して減っていく一つの菌種を特定し、それを高齢のマウスに与えると健康寿命が延びたと報告しています。
257人の腸内細菌から浮かび上がった菌
研究チームはまず、257人(男性141人、女性116人)の便を対象に、メタゲノム解析で腸内細菌の全体像を調べました。参加者は40歳未満が69人、40〜59歳が101人、60歳以上が75人という構成です。さらに北京、南昌、衢州、寧波という4都市の別コホートでも同じ解析を行い、結果が再現されるかを確認しています。
チームはこのデータから、腸内細菌の構成をもとに生物学的な年齢を推定する「MicroAge」という老化時計を作りました。そのうえで、男女を問わず、また複数のコホートに共通して加齢とともに減っていく菌として、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラーツム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)を候補に絞り込みました。ビフィズス菌の仲間です。
高齢マウスに飲ませたら何が起きたか
次にチームは、自然に年をとった18か月齢のマウスにこの菌だけを経口投与し、21か月齢まで観察しました(1群10匹)。その結果、乱れていた腸の恒常性が回復し、腸だけでなく複数の臓器でくすぶっていた慢性炎症(インフラメイジング)が和らぎ、認知機能と運動機能を測る行動試験の成績が改善して、健康寿命が延びたことが示されました。
さらに研究チームは、この菌が作り出す代謝物のうち、5-アミノ吉草酸ベタイン(5-AVAB)という物質に注目しました。この物質もまた、ヒトで加齢とともに体内の濃度が下がっていくことが確認されています。マウスに5-AVAB単独を投与すると(1群13匹)、菌そのものを与えたときに見られた効果の多くが再現され、認知・運動機能の改善と複数臓器の炎症の抑制が認められました。培養したヒトの老化細胞に5-AVABを加えた実験でも、老化の指標やミトコンドリア由来の活性酸素が抑えられています。
つまり「菌が減る、その菌が作る物質が減る、全身の炎症が進む」という道筋が見えてきたわけです。
私たちにできること
ここで注意したいのは、これはマウスの実験とヒトの観察研究であり、市販のサプリメントを飲めば同じ効果が得られると示したものではないという点です。同じビフィズス菌でも菌種によって性質は異なりますし、ヒトでの介入試験はこれからになります。
一方で、この研究には日常に引き寄せられる部分もあります。チームは生活習慣と老化の進み方の関連も解析しており、たとえば散歩の頻度が高い人ほど、ある腸内細菌(Butyricimonas synergistica)が多いという関連が示されています。腸内細菌は食事と運動という、私たちが自分で選べる要素の影響を受けます。特定の菌を狙い撃ちにすることはまだできませんが、食物繊維を含む食品を意識して食べること、そして日々歩く習慣を保つことは、いま手元にある現実的な選択肢と言えます。
「老化は腸から始まるのか」という問いに対して、この研究は具体的な菌の名前と分子の名前で答えを出そうとしています。今後のヒト試験の結果を待ちたいところです。
出典
論文タイトル: A geroprotective probiotic and its functional metabolite counteract inflammaging to extend healthspan 掲載誌: Nature Aging(2026年8月25日公開) 著者: Xiaoyong Lu, Jun Ping, Zichu Han ほか(計29名) DOI: 10.1038/s43587-026-01181-4 URL: https://www.nature.com/articles/s43587-026-01181-4
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