腸の「カビ」を退治したら、細菌まで整った

炎症性腸疾患53人で示された抗真菌薬の意外な力

調査レポート
腸の「カビ」を退治したら、細菌まで整った——炎症性腸疾患53人で示された抗真菌薬の意外な力

腸内環境というと「腸内細菌」ばかりが注目されがちですが、私たちの腸には細菌だけでなく、カンジダなどの真菌(カビや酵母の仲間)も住みついています。潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)では、以前からカンジダの異常増殖が報告されてきましたが、この「腸のカビ」を標的にした治療はほとんど手つかずのままでした。2026年9月1日にNature Medicineへ掲載された研究は、抗真菌薬で腸のカンジダを減らすと、細菌叢まで健康的な方向へ変化し、症状の改善につながる可能性を示しています。

米ワイル・コーネル医科大学などの研究チームは、軽い口腔カンジダ症(口の中にカンジダが増えて白い苔のようになる状態)を併発した、軽症から中等症のIBD患者53名を対象に前向き観察研究を行いました。背景には、こうした患者では口の中と腸に同じカンジダ・アルビカンス株が共有されている、という研究チームの観察があります。参加者のうち18名は、飲み込まずに口をゆすぐタイプの抗真菌薬ニスタチン(口の中だけに作用します)を、35名はフルコナゾールの内服(口と消化管の両方に届きます)を受けました。

その結果、腸内のカンジダ量を効果的に減らし、腸の真菌叢の構成を変化させたのはフルコナゾールだけでした。注目すべきはその先です。フルコナゾール治療に伴って、腸内細菌の多様性が増加し、酪酸などの短鎖脂肪酸をつくる菌が増え、抗炎症作用をもつ微生物代謝物が回復し、真菌と細菌をまたぐ微生物ネットワークにも持続的な変化が生じました。カビを減らしただけで、細菌の生態系まで整った形です。そしてこれらの変化は、疾患活動性指標の改善や、8週間の追跡期間中の病勢進行リスクの低下と同時に観察されました。

注意したいのは、これは53名を対象とした観察研究であり、無作為化比較試験ではないという点です。抗真菌薬を自己判断で使うことは勧められませんし、すべてのIBD患者に当てはまる結果でもありません。それでも、この研究から受け取れるメッセージはあります。第一に、腸内環境は細菌だけで決まるのではなく、真菌を含めた生態系全体で捉える必要があるということです。第二に、口の中の状態が腸とつながっている可能性です。IBDの治療中で口腔カンジダ症のような症状に心当たりがある方は、主治医に伝えてみる価値があると考えられます。マイクロバイオーム医療は、プロバイオティクスや便微生物移植のように「良い菌を足す」だけでなく、「増えすぎたカビを引く」という方向にも広がりつつあると言えます。

出典 論文タイトル: Antifungal therapy improves microbiome dynamics in inflammatory bowel disease 著者: Xiangyu Pan, Aidan Conroy, Tsering S. Ngima ほか 掲載誌: Nature Medicine(2026年9月1日公開) DOI: 10.1038/s41591-026-04616-y

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