腸内細菌がつくる代謝物が、肝臓の胆管を傷つけていた

1000人超の血液が示した「腸と肝臓」をつなぐ物質

調査レポート
腸内細菌がつくる代謝物が、肝臓の胆管を傷つけていた——1000人超の血液が示した「腸と肝臓」をつなぐ物質

腸内細菌は、私たちが食べたものを材料にして、さまざまな物質をつくり出します。その一部は血液に乗って全身をめぐり、遠く離れた臓器にまで届きます。2026年9月4日にNature Metabolismへ掲載された研究は、腸内細菌がアミノ酸から生み出す「イミダゾールプロピオン酸(ImP)」という物質が、原発性硬化性胆管炎という難病の進行を後押ししている可能性を示しました。腸と肝臓のつながりを、分子のレベルまで追いかけた研究です。

4つの国のコホートで、同じ物質が浮かび上がった

原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝臓の中や外を走る胆管に慢性の炎症と線維化が起こり、進行すると胆管がんや肝不全に至ることのある病気です。日本でも指定難病に定められています。潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併しやすく、腸内細菌の乱れとの関連も指摘されてきましたが、腸で起きたことがどうやって肝臓に伝わるのかは分かっていませんでした。

研究チームはまず、PSC患者132名と対照32名の血漿で1108種類の代謝物を網羅的に測り、そのうち261種類(24%)がPSCと関連することを見つけました。そこから「肝臓の機能とは無関係に増えている」「予後と結びついている」という条件で絞り込んだところ、最後に残った候補がImPでした。

ImPの血中濃度の中央値を比べると、健康な人が8.5ナノモル毎リットル、PSCを伴わない炎症性腸疾患の人が10.5、原発性胆汁性胆管炎や脂肪性肝疾患の人が11〜12であったのに対し、PSCの人は19.1と際立って高い値を示しました。さらにノルウェー、スウェーデン、米国の合わせて1000名を超えるPSC患者のいずれのコホートでも、ImPが高い人ほど肝移植を要さずに生存できる期間が短いという同じ傾向が確認されました。移植後に病気が再発するリスクとも関連しており、ImPが中央値を超える人の再発リスクは約2倍でした。

原因なのか、結果なのか

血液の濃度が高いというだけでは、病気の結果かもしれません。そこで研究チームは、PSC患者から採取した胆管上皮細胞のオルガノイド(試験管内で育てた立体的な細胞のかたまり)にImPを与えました。すると炎症や線維化を促す物質の分泌が増え、細胞の形も崩れました。マウスの飲み水にImPを8週間加えた実験では、肝臓の門脈域に炎症と線維化が生じています。そして、ImPの作用を伝える酵素を欠いたマウスでは、この変化が起こりませんでした。単なる目印ではなく、実際に胆管を傷つける側にいることが示唆されます。

なお、ImPは腸内細菌がヒスチジンというアミノ酸から作る物質で、以前から2型糖尿病や心不全との関連も報告されています。今回の研究では、ImPが高い人ほど腸内細菌の多様性が低いという関係も見られました。

日常生活への示唆

この研究の主役は難病ですので、多くの方にすぐ当てはまる話ではありません。またヒスチジンは体内で作れない必須アミノ酸ですから、自己判断でその摂取を減らそうとするのは危険です。

それでも二つのことが読み取れます。一つは、腸内細菌の問題が腸の中だけで完結しないという事実です。腸で生まれた物質が血流に乗り、肝臓や血管や膵臓に届いて働きかけます。もう一つは、何を食べるかと同じくらい、それを誰が代謝するかが結果を左右するという視点です。同じヒスチジンを摂っても、多様性の乏しい腸内環境ではImPを多く産む細菌が優位になりやすいと考えられます。食物繊維や発酵食品を通じて腸内細菌の多様性を保つ努力は、便通のためだけではなく、離れた臓器を守るための備えでもあると言えそうです。

出典 論文タイトル: Gut microbiota-derived imidazole propionate promotes primary sclerosing cholangitis via p38 signalling 著者: Antonio Molinaro, Peder Rustøen Braadland, Guido Carpino ほか(計40名) 掲載誌: Nature Metabolism(2026年9月4日公開) DOI: 10.1038/s42255-026-01600-1

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