人生最初の1000日の砂糖が、70年後の老化を決めていた

戦後イギリスの砂糖配給が生んだ「壮大な実験」

調査レポート
人生最初の1000日の砂糖が、70年後の老化を決めていた——戦後イギリスの砂糖配給が生んだ「壮大な実験」

私たちの老化スピードは、いつ決まるのでしょうか。中年以降の食事や運動が大事なのは間違いありませんが、実はもっとずっと前、生まれる前後の数年間にも手がかりがあるようです。戦後イギリスの砂糖配給制度という偶然の「実験」を利用した研究が、Nature Communicationsに掲載されました。人生最初の1000日に砂糖が少なかった人たちは、70年後の今、生物学的に若く、長生きしていたのです。

砂糖配給の終了が生んだ「くじ引き」

イギリスでは第二次世界大戦中から砂糖が配給制でした。この制度が終わったのは1953年9月です。制度が終わったとたん、国民の砂糖摂取量は50%以上跳ね上がりました。一方でカロリー全体の増加は約5%にとどまっており、増えたのはほぼ砂糖だけという状況でした。

つまり、1953年9月の直前に生まれた人と直後に生まれた人では、乳幼児期に浴びた砂糖の量が大きく違います。生まれた月というほぼ偶然の要素で振り分けられているため、研究者にとっては「くじ引き」に近い比較ができる貴重な機会になります。

中国・広州の研究チームは、この点に着目しました。UKバイオバンクに登録された64,809人を、受胎から2歳までの1000日間に配給制の下にいたかどうかで分け、その後の病気・老化指標・死亡を追跡しています。

9%の病気減少、19%の死亡減少

結果は一貫していました。配給下で育った群では、老化の特徴に関連する83疾患をまとめた指標の発症が9%低くなっていました(ハザード比0.91、95%信頼区間0.88〜0.94)。個別に見ると、2型糖尿病が21%低下、脂肪肝は39%低下、乳がんは18%低下という数字が示されています。

さらに、あらゆる原因による死亡リスクが19%低いことも分かりました(ハザード比0.81、95%信頼区間0.69〜0.93)。この生存上の利点のおよそ60%は、老化関連疾患が減ったことで説明できると解析されています。

血液から推定する生物学的年齢も、配給群のほうが1.0〜1.2歳ほど若く出ていました。臓器ごとに見ると、肺・心臓・肝臓で差が最も大きかったと報告されています。血液中のたんぱく質を調べた解析では、長寿と関連するAMPK経路が活性化し、逆に老化を進めるとされるmTOR経路が抑えられている傾向が見られました。

興味深いのは、配給を受けた期間が長いほど守られる効果が大きくなっていた点です。ただし胎内にいた時期だけの曝露では、はっきりした関連は見られませんでした。生まれた後、実際に食べ始めてからの期間が重要である可能性が示唆されます。

明日からできること

この研究は観察研究であり、砂糖を減らせば必ず長生きすると証明したわけではありません。生物学的年齢の1〜2歳という差も、個人レベルでは大きな違いとは言えない程度です。

それでも、実用的な示唆はあります。まず、離乳食から幼児食の時期に加糖を控えることは、WHOやアメリカ心臓協会の推奨とも一致しており、この研究はその根拠を一段強めたと言えます。お子さんやお孫さんがいる方は、甘い飲料やお菓子を「まだ早い」と考える理由が増えたことになります。

そしてもう一つ、この研究では臓器の老化に対する影響の大きさが、激しい運動や青魚を食べる習慣と同程度だったと報告されています。裏を返せば、大人になってからの運動や食事の選択にも、それに匹敵する余地が残っているということです。乳幼児期をやり直すことはできませんが、今日の一杯の甘い飲み物を水やお茶に替えることには、変わらず意味があります。

出典

論文タイトル: Early life sugar rationing and ageing related diseases, biological ageing and mortality 著者: Jiazhen Zheng, Zhen Zhou, Jinghan Huang ほか(計14名) 掲載誌: Nature Communications 公開日: 2026年7月31日 DOI: 10.1038/s41467-026-76257-1 URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-76257-1

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