歯ぐきの病気と血管の病気に関連があることは、これまで数多くの疫学研究が指摘してきました。ただしその多くは「歯周病の人はのちに心血管の病気になりやすい」という統計上の結びつきであって、口の中の細菌が本当に血管の現場まで届いているのかを直接確かめたものではありません。2026年8月25日にTranslational Stroke Researchで公開されたスペインの研究は、脳梗塞の患者から実際に取り出された血栓そのものを調べ、そこに歯周病菌由来のたんぱく質が含まれていたことを報告しました。
取り出した血栓を、そのまま分析にかけた
研究を行ったのは、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学と同大学病院を中心とするチームです。対象になったのは、重度の歯周炎を持ち、急性の虚血性脳梗塞を起こした患者9人でした。
この9人はいずれも、詰まった血管から器具で血栓を回収する機械的血栓回収療法を受けています。治療のために取り出された血栓を検体として、液体クロマトグラフィー質量分析とSWATH-MSという手法で、含まれるたんぱく質を網羅的に定量しました。着目したのは、歯周病に関わる代表的な5菌種、すなわちAggregatibacter actinomycetemcomitans、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Tannerella forsythia、Treponema denticolaに由来するたんぱく質です。
9人は脳梗塞の成り立ちによって3つのタイプに分けられ、動脈硬化が原因のもの、心臓にできた血栓が飛んできた心原性塞栓によるもの、原因を特定できなかったものが、それぞれ3人ずつ含まれていました。
136個のうち112個が、一つの菌に由来していた
分析の結果、血栓から細菌由来のたんぱく質が合計136個検出されました。そのうち112個はAggregatibacter actinomycetemcomitansという一つの菌種に由来するもので、検出されたたんぱく質の大部分を占めていたことになります。この菌は、若年層にも起こる進行の速い歯周炎との関連が知られている細菌です。
136個のうち16個は、脳梗塞のタイプによって量に統計的な差が見られました。これらの多くも同じ菌に由来し、働きとしては転写や翻訳といった細菌の基本的な営みや、酸化ストレスへの抵抗を含むストレス応答に関わるものが中心でした。他の菌種に由来するたんぱく質で差が出たものは少なかったのですが、例外として、動脈硬化が原因のタイプの血栓では、Tannerella forsythia由来のコラゲナーゼが目立ちました。コラゲナーゼはコラーゲンを分解する酵素で、血管の壁を支える組織に働きかける可能性が考えられます。
この結果をどう受け止めるか
注意しておきたいのは、これが9人を対象とした探索的な研究だという点です。歯周炎のない人の血栓と比べる対照群は置かれておらず、各タイプわずか3人ずつという規模でもあります。また、検出されたたんぱく質が血栓のでき方に関わったのか、それとも出来上がった血栓に後から取り込まれただけなのかは、今回のデータからは判断できません。因果関係が示されたわけではない、という前提で読む必要があります。
それでも、口の中に住む細菌に由来する物質が、脳の血管をふさいだ血栓の中から実際に見つかったという事実には意味があると言えます。歯ぐきと血管をつなぐ道筋を、統計ではなく現物で示した報告だからです。
日常生活への示唆
明日からできることは、けっして目新しいものではありません。歯みがきに加えて、歯間ブラシやデンタルフロスで歯と歯のあいだの汚れを落とすこと、そして歯科で定期的に確認を受けることです。
とくに、歯みがきのときに出血する状態を放置しないことが大切です。出血するということは、そこに細菌が血流へ入り込む入り口があるという意味になります。歯ぐきの手入れは口の中だけの話ではないかもしれない、と考えておく価値はあるでしょう。
出典
論文タイトル: Periodontal Bacteria Proteomics in Thrombi from Ischemic Stroke Patients 著者: Florencia Gayo、Susana Bravo、Jorge Moldes ほか(計11名) 掲載誌: Translational Stroke Research(2026年8月25日公開) DOI: 10.1007/s12975-026-01493-y
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