「早食い」が糖尿病リスクを12%押し上げていた

静岡の9万8千人を12年追った健診データ

調査レポート
「早食い」が糖尿病リスクを12%押し上げていた——静岡の9万8千人を12年追った健診データ

よく噛んでゆっくり食べましょう、という言葉は、健康の話題で繰り返し語られてきました。ただ、それが本当に病気を防ぐのかを大規模に確かめた研究は、それほど多くありません。静岡県の健診記録9万8千人分を12年にわたって追った解析が、早食いと2型糖尿病の発症を結ぶ数字を示しました。

12年分の健診記録から浮かび上がったもの

静岡県立大学などの研究チームは、聖隷福祉事業団が実施した年1回の健診記録(2008年4月から2020年3月まで)を用いました。対象は18歳から75歳までの98,718人で、内訳は男性55,507人、女性43,211人です。追跡期間中に4,631人が新たに2型糖尿病を発症しました。糖尿病は空腹時血糖126mg/dL以上、またはHbA1c 6.5%以上、あるいは医療機関での診断や処方の記録で判定されています。

調べられた食習慣は5つでした。早食い、朝食を抜くこと(週3回以上)、就寝2時間以内の夕食、夕食後の間食、そして毎食の野菜摂取です。研究チームは、追跡期間を通じて同じ回答を続けた人だけをその項目の解析対象とし、たまたまその時期だけそうだった人を除いています。さらに傾向スコアマッチングという手法を使い、性別・年齢・BMI・血圧・コレステロール・喫煙・飲酒の条件をそろえた2つの群を作ったうえで比較しました。

有意だったのは早食いだけでした

結果として、5つの習慣のうち発症リスクと統計的に有意な関連を示したのは、早食いだけでした。早食いの人は、そうでない人に比べて2型糖尿病の発症リスクが12%高いという結果です(ハザード比1.12、95%信頼区間1.02から1.23)。マッチング後の解析対象は50,180人でした。朝食欠食、遅い夕食、夕食後の間食、毎食の野菜摂取については、有意な関連は見られませんでした。

性別に分けた追加解析では、女性で14%のリスク上昇が見られた一方(ハザード比1.14、95%信頼区間1.00から1.30)、男性では有意な関連が出ませんでした。ただし著者らは、この性差の解析は事後的に行ったものであり、仮説を立てる段階の知見として慎重に受け取るべきだと述べています。

なぜ食べる速さが血糖に響くのか

論文の考察では、いくつかの道筋が挙げられています。速く食べると満腹のサインを受け取る前に量が進み、摂取エネルギーが増えやすいこと。同じ食事でも食後の血糖の上がり方が急になり、インスリンの分泌にも急な負担がかかること。この繰り返しが膵臓のβ細胞を疲弊させる可能性が指摘されています。実際、健康な若い女性を対象とした交差試験では、10分で食べた場合は20分かけた場合より食後血糖の変動幅が大きくなったと報告されています。

興味深いのは、別の日本の大規模研究(従業員128,594人)で、BMIが25未満の人のほうが早食いの影響が大きかったという報告です。すでに肥満のある人では肥満そのものの影響が大きく、食べる速さの寄与が見えにくくなるのかもしれません。痩せているから早食いでも平気、とは言えないわけです。

日常生活への示唆

この研究が測ったのは「自分は食べるのが速い方だと思うか」という自己申告であり、噛んだ回数そのものではありません。効果の大きさも12%と控えめですし、観察研究である以上、因果関係が証明されたわけでもありません。対象が静岡県の受診者に限られている点も、著者ら自身が限界として挙げています。

それでも、食べる速さは自分で気づける数少ない習慣です。ひと口ごとに箸を置く、会話を挟む、汁物や野菜から食べ始めるといった工夫は、どれも特別な道具を必要としません。論文でも、食べる速さは診察の場で観察でき、本人が変えられる行動であるため、生活指導に取り入れる価値があると述べられています。

いつも食事が10分で終わっているなら、まず15分に延ばしてみる。それだけでも、意味のある一歩になるかもしれません。

出典

論文タイトル: Targeting Habitual Fast Eating as a Modifiable Risk Factor for Type 2 Diabetes: A Propensity Score-Matched Analysis 著者: Emmanuele Dutra da Silva Andrade、Yuichiro Obana、Mika Suzuki ほか(計7名) 掲載誌: Diabetes Therapy(2026年8月26日公開) DOI: 10.1007/s13300-026-01912-1

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