同じ50歳でも、心臓や肺、膵臓が同じ速さで老いているとは限りません。アンチエイジングを考えるうえで「体のどこが、どのくらい老いているのか」を知ることは出発点になります。2026年8月、顕微鏡で見た組織の形そのものから臓器ごとの生物学的年齢を推定する研究が、Nature Medicineに発表されました。
研究の概要
研究チームは、米国の大規模研究プロジェクトGTExに参加した20〜70歳の983人から採取された、40種類の組織の病理画像25,712枚を解析しました。深層学習で組織の細かな形の特徴を数値化し、そこから年齢を推定する「組織時計」を組織ごとに作成しています。実年齢との推定誤差は、全組織の平均で4.88年でした。
推定した年齢と実年齢の差(年齢ギャップ)が大きい組織ほど、テロメアが短く、症状に現れない程度の病理変化や併存疾患も多い傾向がありました。たとえば年齢ギャップの大きい大動脈では壁の肥厚など動脈硬化に関わる変化が、小脳ではミエリンの減少や虚血に伴う変化が観察されています。多くの臓器で加齢とともに共通して増えていたのは、萎縮、微小血管の減少、線維化でした。
同じ人の中でも、臓器の老け方はそろっていませんでした。多くの組織で年齢ギャップが小さい「レジリエントな加齢者」や、ほとんどの組織で大きい「全身性の加齢者」に加え、心臓や肺、胃など特定の臓器だけが突出して老けている人も見つかっています。
病気との関連も探索的に調べられました。慢性呼吸器疾患は肺の、2型糖尿病は膵臓の老化の進みと関連していました。腎不全は複数の組織の老化の加速と関連し、その関連は腎臓そのものより、脂肪組織や脾臓、脛骨神経などで強く見られました。
さらに研究チームは、血液の遺伝子発現から臓器ごとの年齢ギャップを推定する手法も開発しました。独立した1,205件の血液サンプルに当てはめたところ、脳卒中の人では脳で、クローン病の人では消化管で年齢ギャップが高く推定されました。アルツハイマー病では脳だけに有意な上昇が見られ、調べた7つの慢性疾患のすべてで、少なくとも1つの臓器に老化の加速が示されています。
一方で限界もあります。解析したのは亡くなった方の組織を一時点で調べたデータであり、因果関係や病気が始まる時期までは分かりません。血液による推定が発症前に異変を捉えられるかどうかは、今後の追跡研究で確かめる必要があると著者らは述べています。また、対象者は男性が女性の約2倍を占めていました。
日常生活への示唆
この研究は、老化が全身で一律に進むのではなく、臓器ごとに速さが異なる可能性を示しています。明日からできることとして、次の3つが考えられます。
- 健診結果を臓器ごとに見直してみましょう。血糖は膵臓、eGFRは腎臓、血圧は血管というように、どの臓器に負担がかかっているかの手がかりを探す視点が役立ちます。
- 持病の管理は、その臓器だけの問題ではありません。腎不全が他の組織の老化とも関連していたように、慢性疾患を早めに治療し管理することが、全身の老化対策につながる可能性があります。
- 「生物学的年齢」をうたう検査は増えていますが、今回の血液による推定はまだ研究段階です。数値に一喜一憂するより、医師と相談しながら生活習慣の見直しを続けることが大切です。
出典
- 論文タイトル: Histological aging signatures for monitoring tissue-specific aging and disease
- 著者: Ernesto Abila, Iva Buljan, Yimin Zheng ほか(計29名)
- 掲載誌: Nature Medicine
- 公開日: 2026年8月14日
- DOI: 10.1038/s41591-026-04566-5
- URL: https://www.nature.com/articles/s41591-026-04566-5
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