年をとると血液が「炎症寄り」に傾く、その引き金は骨髄に集まるT細胞だった

既存のHIV薬で老齢マウスの筋力が回復

調査レポート
年をとると血液が「炎症寄り」に傾く、その引き金は骨髄に集まるT細胞だった——既存のHIV薬で老齢マウスの筋力が回復

健康診断の血液検査で目にする好中球とリンパ球。この2つの比率(好中球リンパ球比、NLR)は、年齢とともに高くなり、高齢者では死亡リスクを強く予測する指標として知られています。なぜ年をとると血液が好中球に偏るのか。スペインの研究チームが、その引き金の一つを突き止め、すでに承認されている薬でマウスの老化の指標を改善できる可能性を示しました。

研究の概要

研究チームは、生後3か月の若いマウスと24か月の老齢マウスを比べました。老齢マウスでは、血液中の好中球と単球が増えてリンパ球が減り、NLRが上昇していました。骨髄でも、好中球などをつくる前駆細胞が増え、リンパ球の前駆細胞は減っていました。

注目したのは、骨髄に集まるT細胞です。老齢マウスの骨髄では、ケモカインCCL5を多く出す「細胞傷害性CD4陽性T細胞」が増えており、骨髄のCD4陽性T細胞に占める割合は、若いマウスの平均約1.6%に対して老齢マウスでは約26.8%でした。老齢マウスのCD4陽性T細胞をT細胞を持たない若い免疫不全マウスへ移すと、骨髄で好中球をつくる前駆細胞と好中球が増えました。

さらに、若いマウスのT細胞を老齢マウスへ移すと、骨髄でこのタイプに変化した細胞は若いマウスへ移した場合の18.5倍に増えました。老いた体内環境そのものが、T細胞をこのタイプへ変えていくことがうかがえます。変化したT細胞ではミトコンドリアの働きが落ちており、STINGと呼ばれる炎症の経路を介してCCL5の産生が高まっていました。

CCL5の受け取り手は、造血幹細胞などが持つ受容体CCR5です。老齢マウスではCCR5を持つ造血幹細胞や前駆細胞の割合が増えており、CCR5を欠く前駆細胞は、老齢マウスのT細胞を移しても好中球側へ偏りませんでした。

最後に研究チームは、HIV治療薬としてFDAに承認されているCCR5阻害薬マラビロクを、老齢マウスに1か月間毎日投与しました。その結果、骨髄の前駆細胞の偏りが抑えられ、血中の好中球の割合が下がり、NLRは正常化しました。肺や肝臓に入り込む好中球も減り、血中の炎症性サイトカインが低下しました。加えて、血糖値や肝酵素などの老化に伴う指標、呼吸交換比、前肢の握力、回転棒から落ちるまでの時間も、若いマウスに近い値へ改善したと報告されています。若いマウスへの投与では目立った影響は見られませんでした。

注意しておきたい点

この研究の中心はマウスの実験であり、投与も腹腔内注射で行われています。人の高齢者でマラビロクが同じように働くか、長期に使って安全かは、まだ確かめられていません。また、細胞傷害性CD4陽性T細胞には老化細胞を取り除く働きも報告されており、単純に減らせばよい細胞ではないと著者らも述べています。老化を防ぐ目的でHIV治療薬を使うことは、現時点では勧められません。

日常生活への示唆

出典

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