「よく噛んで食べなさい」と言われて育った方は多いと思います。ただ、自分が実際に何回噛んでいるかを数えたことのある人はほとんどいないはずです。東京歯科大学の研究チームが、咬筋に貼るセンサーで咀嚼回数を自動計測し、体格との関係を調べた研究を発表しました。結果は、噛む回数が少ない人ほどBMIが高い傾向があるというものでした。
センサーで「噛んだ回数」を数える
研究チームは、耳の下の咬筋に小型センサーを貼り付けて皮膚の動きから咀嚼回数を数えるウェアラブル機器を用いました。あらかじめ校正を行い、会話や嚥下の動きを咀嚼と区別できるようにしてあります。従来この分野の研究の多くはアンケートや目視観察に頼っていたため、装置による客観的な計測は限られていました。
対象は、日本の大学の学生と職員から募った健康な成人106名です(女性78名、男性28名、年齢の中央値は20歳)。参加者には市販のおにぎり1個(113グラム、175キロカロリー)を、いつもどおりのペースで自由に食べてもらい、その間の咀嚼回数と食事時間を記録しました。あわせて、噛むと色が変わるガムを使って咀嚼能力も5段階で評価しています。
おにぎり1個で中央値200回
まず、おにぎり1個を食べ終えるまでの咀嚼回数は中央値で200回でした(四分位範囲は119回から277回)。人によって2倍以上の開きがあることになります。食事時間は中央値230秒、1秒あたりの咀嚼回数は0.9回でした。
男女差も明確でした。女性は咀嚼回数の中央値が216回、食事時間が263秒だったのに対し、男性はそれぞれ146回、146秒と、男性のほうが速く食べ終えていました。
そして本題の体格との関係です。BMIは咀嚼回数と負の相関を示し(相関係数マイナス0.41)、食事時間とも同様の負の相関がみられました。自己申告で「早食い」と答えた58名は、そうでない48名と比べてBMIが高く、咀嚼回数が少なく、食事時間も短いという結果でした。
さらに、性別と早食い習慣を同時に考慮した重回帰分析でも、咀嚼回数はBMIと独立して関連していました。つまり、性別や早食いの自覚とは別に、実際に噛んだ回数そのものが体格と結びついていた可能性が示されています。
この結果の読み方と限界
ここで注意したいのは、この研究が一時点で測定した横断研究であるという点です。噛む回数が少ないから太るのか、体格や体質の違いが噛み方に表れているのか、原因と結果の向きはこのデータだけでは決められません。研究チーム自身も、因果関係を明らかにするには縦断研究や介入研究が必要であると述べています。
そのほかにも、参加者の多くが若い成人であること、男性が28名と少ないこと、身長と体重が自己申告であること、試験食がおにぎり1種類に限られることなど、いくつもの限界が論文中で明示されています。
一方で、過去には1口あたり15回と40回で噛む回数を変えた研究があり、40回のほうが食欲を高めるホルモンであるグレリンが低く、食欲を抑えるGLP-1などが高くなったと報告されています。噛む回数と食欲調節をつなぐ生理学的な説明は、一定の裏づけを持っていると言えます。
明日からできること
この研究で興味深いのは、咀嚼回数と食事時間がほぼ直線的な関係にあった点です。噛む回数を増やせば、自然と食事時間も延びていきます。逆に言えば、食事時間を意識的に確保することが、噛む回数を増やす近道になります。
まずは一度、おにぎり1個やご飯一膳を食べながら数えてみることをおすすめします。中央値の200回と比べて自分がどのあたりにいるかがわかると、それだけで食べ方への意識は変わります。そのうえで、一口の量を少し減らす、箸を置く間をつくる、食事中にスマートフォンを見ないといった工夫が、噛む回数を増やす助けになります。
噛むという行為は、特別な道具も費用も必要としない、毎日必ず繰り返す習慣です。その回数に少しだけ注意を向けてみる価値はありそうです。
出典
論文タイトル: Relationship between Masticatory Behaviors and Body Mass Index in Healthy Adults Using a Wearable Mastication Counter 著者: Arata Tsutsui, Keiichi Ishigami, Takahiro Sakaue, Shinji Togo, Erik-Masao Boller, Tomotaka Takeda, Kazunori Nakajima(計7名) 掲載誌: Journal of Nutritional Science and Vitaminology(2026年8月31日公開) DOI: 10.3177/jnsv.72.299
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