ヨーグルトや発酵食品、食物繊維など、「腸にいい」とされる食べ物の情報は世界中で共有されています。しかし、アメリカで得られた研究結果が、そのまま日本人の腸にも当てはまるのかどうかは、実はよくわかっていませんでした。2026年9月21日にNature Communicationsで公開された研究は、日本を含む5か国の人々の腸内細菌を同じ手順で調べ、この疑問に正面から取り組んでいます。
なぜ「同じ方法で比べる」ことが重要なのか
腸内細菌の研究はこれまで世界各地で行われてきましたが、便の採取方法や解析手順、食事の聞き取り方が研究ごとに異なっていました。そのため、国ごとに腸内細菌が違って見えても、それが本当の違いなのか、調べ方の違いによるものなのかを区別するのが難しいという課題がありました。
今回の研究は、THDMI(The Human Diets and Microbiome Initiative)と呼ばれる国際プロジェクトの成果です。アメリカ、イギリス、スペイン、メキシコ、日本の5か国で、参加者の募集方法、食事の評価方法、便に含まれる細菌の遺伝子をまるごと読み取る解析(ショットガン・メタゲノム解析)をすべて統一し、合計1,976人のデータを集めました。調べ方をそろえることで、技術的なばらつきと生物学的な違いを切り分けることを狙っています。
わかったこと
まず、国によって栄養素の摂取量、よく食べる食品、そして腸内細菌の構成に、はっきりとした違いが見られました。食事と結びついた腸内細菌の特徴には、5か国に共通するものと、特定の国にだけ見られるものの両方があったと報告されています。
注目すべきは、食事と腸内細菌の結びつきを統計手法や機械学習で分析した結果です。ある国のデータで見つかった「この食事をしている人にはこの細菌が多い」という関係は、多くの場合、ほかの国にはうまく当てはまりませんでした。つまり、食事と腸内細菌の関係の多くは、その国の集団に特有のものである可能性が示されました。
さらに、同じ種類の細菌であっても、国によって遺伝子レベルで違いがあることもわかりました。細菌の「株」(同じ種の中の系統)を詳しく調べると、国ごとに有意な遺伝的な分化が見られ、それぞれの地域の食習慣や環境の違いと整合する結果だったとされています。
著者らは、健康的な食事に対する腸内細菌の中心的な反応は国を超えて存在する一方で、腸内細菌の構造や働きは文化、地理、長年の食習慣によって大きく異なると結論づけています。
日常生活への示唆
この研究から読み取れるのは、「海外で効果があった食品が、自分の腸にも同じように働くとは限らない」という視点です。海外の研究で話題になった特定の食品やサプリメントに飛びつく前に、その研究がどの国の人を対象にしていたのかを確認してみることをおすすめします。
一方で、健康的な食事に対する共通の反応も存在することが示されています。野菜、豆類、全粒穀物などを含むバランスのよい食事を続けるという基本は、国を問わず大切にしてよいと考えられます。そのうえで、みそや納豆、漬物、海藻など、日本の食文化の中で長く食べられてきた食品を普段の食事に取り入れることも、自分の腸内環境と向き合う一つの方法と言えます。
なお、今回公開されたのは査読済みの早期公開版で、現時点で確認できるのは抄録の範囲です。国ごとにどの細菌や食品が関係していたのかといった詳細は、今後公開される確定版で明らかになると思われます。また、本研究は食品企業の研究部門(Danone Nutricia Research)から資金提供を受けていることも、あわせて知っておくとよいでしょう。
出典
論文タイトル: Five-country analysis of geographic and dietary drivers of gut microbiome composition and genomic variation 著者: Lora Khatib, Renee Oles, Alejandra Ríos Hernández ほか(計45名、最終著者はRob Knight) 掲載誌: Nature Communications 公開日: 2026年9月21日 DOI: 10.1038/s41467-026-77928-9 URL: https://www.nature.com/articles/s41467-026-77928-9
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