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がん細胞の「食べないで」信号を外す新薬

HER2陽性胃がんで奏効率40%、日本の研究者が主導した国際試験がNature Medicineに

調査レポート
がん細胞の「食べないで」信号を外す新薬——HER2陽性胃がんで奏効率40%、日本の研究者が主導した国際試験がNature Medicineに

胃がんは日本人に多いがんの一つであり、進行・再発した場合の治療選択肢はまだ限られています。2026年9月24日、がん細胞が免疫から逃れるための「目印」を封じる新しいタイプの薬を、既存の標準治療に上乗せする国際ランダム化試験の結果がNature Medicineに掲載されました。筆頭著者は国立がん研究センター東病院の設楽紘平医師です。

がん細胞が出す「私を食べないで」という信号

私たちの体には、異物や異常な細胞を丸ごと食べて処理するマクロファージという免疫細胞があります。ところが多くのがん細胞は、表面にCD47というたんぱく質を大量に出しています。CD47はマクロファージ側のSIRPαという受容体と結合し、「食べないで」という信号を送ります。がん細胞はこの仕組みを悪用して、免疫の攻撃をすり抜けていると考えられています。

今回の試験で使われたエボルパセプトは、このCD47とSIRPαの結合をふさぐ薬です。単独では「食べて」という後押しが足りないため、がん細胞に目印を付ける抗体薬トラスツズマブ(HER2を標的とする薬)と組み合わせることで、マクロファージによる捕食を強める狙いがあります。過去に開発された同種の薬は正常な血液細胞まで攻撃する副作用が課題でしたが、エボルパセプトはその作用を弱める設計になっています。

127人を対象とした国際ランダム化試験

ASPEN-06試験の第2相部分では、10か国49施設で、HER2陽性の進行胃がん・食道胃接合部がんの患者127人が登録されました。いずれもHER2を標的とする治療を受けた後に病気が進行した方々で、年齢の中央値は64歳、約半数がアジア系でした。

患者は、標準的な3剤(トラスツズマブ、ラムシルマブ、パクリタキセル)にエボルパセプトを加える群(63人)と、3剤のみの群(64人)に割り付けられました。

主な結果は次のとおりです。

一方で、あらかじめ定めた「過去の標準治療の奏効率30%を統計的に上回る」という基準は満たせませんでした。全生存期間についても、全体では両群に明確な差は見られていません。

効きやすい人を見分ける手がかり

事後解析では、HER2陽性が維持され、かつがん細胞のCD47が多い患者(48人)で効果が際立っていました。奏効率は63.6%対23.1%、病気が進行しない期間の中央値は19.5か月対7.0か月でした。反対にCD47が少ない患者では上乗せの利点は見られませんでした。

ただし、この解析は試験後に基準値を決めて同じデータで評価したものです。対象人数も少ないため、著者ら自身も過大評価の可能性を認めており、今後の検証が必要とされています。

安全性については、好中球減少や貧血が上乗せ群でやや多かったものの、発熱性好中球減少症は増えておらず、治療中止の割合も同程度でした。固形がんでCD47を標的とする治療の有効性と管理可能な安全性をランダム化試験で示したのは、著者らの知る限り初めてとされています。

日常生活への示唆

今回の成果は進行胃がんの治療薬の話であり、すぐに一般の方が使えるものではありません。それでも、次の2点は読者の皆さんにも関わりがあります。

1つ目は、同じ「HER2陽性胃がん」でも、がんの性質は治療の途中で変わりうるという点です。治療前の検査結果だけでなく、必要に応じて再検査を行うことが、より合った治療選びにつながる可能性が示されました。

2つ目は、胃がんは早期に見つければ治療の選択肢が大きく広がるという点です。ピロリ菌の検査や除菌、自治体や職場の胃がん検診を定期的に受けることは、今日からできる確実な備えと言えます。ご自身やご家族の検診の予定を、この機会に確認してみてください。

出典

論文タイトル: Evorpacept plus trastuzumab, ramucirumab and paclitaxel in HER2-positive gastric cancer: a randomized phase 2 trial 著者: Kohei Shitara, Zev Wainberg, Josep Tabernero ほか(計17名) 掲載誌: Nature Medicine(2026年9月24日公開) DOI: 10.1038/s41591-026-04700-3 URL: https://www.nature.com/articles/s41591-026-04700-3

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