「歯が抜けたのは年のせい」と、そのままにしていないでしょうか。中国・米国・英国という医療制度も生活習慣も異なる3カ国の中高年3万人あまりを追跡した研究で、歯を失っている人はその後に心臓病や脳卒中を発症しやすいことが、どの国でも一貫して確認されました。口の中の状態が、心臓や血管の健康を映す「身近なサイン」になりうることを示した研究です。
研究の概要
この研究は、2026年8月に医学誌 Journal of Clinical Medicine に掲載されました。研究チームは、各国を代表する3つの高齢化研究のデータを同じ基準にそろえて解析しています。対象は中国のCHARLS、米国のHRS、英国のELSAで、いずれも45歳以上の中高年を長期間追跡している大規模調査です。
解析の対象は、研究開始時点で心臓病や脳卒中のない3万1805人(中国1万3451人、米国1万1384人、英国6970人)です。研究開始時に歯を失っているかどうかを調べ、その後に医師から心臓病または脳卒中と診断されたかを追いかけました。追跡期間中に、中国で2336件、米国で2914件、英国で545件の心血管病の発症が確認されました。
年齢、性別、学歴、婚姻状況に加え、肥満度、喫煙、飲酒、高血圧、糖尿病などの影響を統計的に取り除いたうえで比較しても、歯を失っている人の心血管病リスクは、中国で1.31倍、米国で1.43倍、英国で1.86倍に高まっていました。国によって程度の差はあるものの、3カ国すべてで同じ方向の関連が見られた点が、この研究の大きな特徴と言えます。
さらに、失った歯の本数がわかる英国のデータでは、歯を多く失っている人ほどリスクが段階的に高くなる傾向も示されました。また、追跡開始から2年以内に発症した人を除いても結果はほとんど変わらず、「もともと体調が悪かった人が歯を失っていただけ」という説明だけでは結果を説明しにくいことも確認されています。
では、なぜ歯の喪失が心臓や血管に関係するのでしょうか。研究チームは、主に2つの経路を想定しています。1つは、歯を失う主な原因である歯周病による長年の慢性炎症です。歯ぐきの炎症や細菌が血流に乗って全身に広がり、血管を傷つけて動脈硬化を進める可能性が指摘されています。もう1つは、かむ力の低下による食生活の変化です。歯が少なくなると野菜や果物など硬い食品を避けがちになり、心臓を守る栄養素が不足しやすくなると考えられています。
ただし、これは観察研究であり、歯の喪失が心血管病の直接の原因であると証明したものではありません。歯の有無は本人の回答に基づくもので、歯周病の詳しい検査データも含まれていません。喫煙や経済状況など、共通する背景要因の影響を完全には取り除けていない可能性も、著者自身が認めています。
日常生活への示唆
この研究から、私たちが日々の生活に生かせるポイントは次のとおりです。
1つ目は、歯を失うことを「年齢のせい」だけで片づけないことです。歯の喪失は、口の中で長く続いてきた炎症の結果であることが多く、全身の健康状態を映すサインである可能性があります。
2つ目は、歯を失う最大の原因である歯周病を防ぐことです。毎日の歯みがきに加え、歯間ブラシやデンタルフロスで歯と歯の間の汚れを落とすことが大切です。歯ぐきからの出血や腫れは、歯周病の初期のサインと言えます。
3つ目は、年に1〜2回は歯科で定期健診とクリーニングを受けることです。自覚症状がなくても歯周病は進行するため、専門家によるチェックが歯を守る近道になります。
4つ目は、すでに歯を失っている方も、入れ歯やブリッジなどでかむ力を取り戻し、野菜や果物をしっかり食べられる状態を保つことです。あわせて、血圧や血糖、禁煙といった心臓病の基本的な予防にも取り組むことをおすすめします。
口の健康と心臓の健康は、別々のものではない可能性が示されています。次の歯科健診の予定を、この機会にぜひ確認してみてください。
出典
論文タイトル: Missing Teeth and Incident Cardiovascular Disease in Ageing Populations: Longitudinal Evidence from Three Nationally Representative Cohorts 著者: Zeping Huang, En Qiao, Jun Yu, Wei Wang 掲載誌: Journal of Clinical Medicine(2026年8月5日公開) DOI: 10.3390/jcm15156080 URL: https://doi.org/10.3390/jcm15156080
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