インフルエンザの季節が近づくと、職場でも家庭でも「予防接種を受けましょう」という呼びかけが増えます。しかし、同じ呼びかけでも伝え方によって人の行動は変わるのでしょうか。米国で9万人を超える患者を対象に行われた3つのランダム化試験が、この問いに実データで答えました。結果は、相手の状況に合わせた「個別のリスク」を伝えることが、単なるリマインダーより接種を後押しする可能性を示しています。
研究の概要
この研究は、米国の医療機関Geisingerの患者を対象に、事前登録された3つのランダム化比較試験として行われ、Nature Human Behaviourに2026年10月に掲載されました。
研究チームは、すでに検証済みの機械学習アルゴリズムを使い、インフルエンザとその合併症のリスクが高い患者を特定しました。そのうえで患者を、メッセージを送らない群、通常の接種リマインダーを送る群、「あなたはリスクが高い」と伝える群などに無作為に振り分け、その後の接種率を比較しました。リスクの伝え方にも工夫があり、「リスクが上位3%に入っています」「上位10%です」「リスクが高い状態です」といった表現が使い分けられました。
主な結果は次のとおりです。
- 高リスクであると伝えられた患者は、単に接種を促すリマインダーを受け取った患者よりも、接種率が1.1〜1.4ポイント(相対的に3.3〜5.4%)高くなりました
- メッセージを受け取らなかった患者と比べると、1.7〜3.5ポイント(相対的に3.3〜14.7%)高くなりました
- 参考として、メッセージを送らなかった群の接種率は、試験ごとに50.8%、31.5%、23.8%でした
もう一つの注目点は、AIの関与を伝えるかどうかの検証です。研究チームは、リスクの判定に「アルゴリズム」を使ったと明かすメッセージや、なぜ高リスクと判定されたのかの理由を個別に示すメッセージも試しました。その結果、これらを含めても含めなくても接種率はほぼ同じでした。著者らは、少なくともこの現実的な医療の場面では、患者はアルゴリズムの使用を嫌うわけでも、説明があるからといって特に好意的に受け止めるわけでもないと解釈しています。
数ポイントという差は小さく見えるかもしれません。しかし、メッセージの送信は低コストで大人数に届けられるため、集団全体で見れば接種者の数を確実に積み上げる手段になりうると考えられます。
日常生活への示唆
この研究は医療機関から患者へのメッセージを対象にしていますが、職場や家庭での声かけを考えるうえでも参考になります。
- 「みんな受けましょう」という一律の呼びかけより、「持病がある」「高齢の家族と暮らしている」など、相手自身に当てはまる理由を添えると行動につながりやすい可能性があります
- 職場で接種を呼びかける担当者は、全員向けの案内に加えて、リスクの高い人が自分ごととして受け止められる情報を用意すると効果的かもしれません
- 自分自身についても、年齢や持病などから合併症のリスクが高いかどうかを一度確認し、かかりつけ医に相談してみてください
- 健康情報の判定にAIが使われていると聞いても、それだけで身構える必要はありません。大切なのは中身と、自分に当てはまるかどうかです
ただし、この研究は米国の1つの医療システムで行われたもので、効果の大きさが日本の職場や地域でそのまま再現されるとは限りません。また、リスクを強調しすぎると不安をあおることにもなりうるため、相手を責めるのではなく、気づきを促す伝え方を心がけたいところです。
インフルエンザ対策は、一人ひとりの予防と、周囲とのコミュニケーションの両方で成り立ちます。「あなたにとって大事な理由」を添えた一言が、身近な人の接種を後押しするきっかけになるかもしれません。
出典
論文タイトル: Algorithm-assisted personalized risk communication to encourage flu vaccination in the USA: three randomized field trials 著者: Gail M. Rosenbaum, Amir Goren, Maheen Shermohammed, Donna M. Wolk, Ann Marie Tice, Joseph J. Doyle, Michelle N. Meyer, Christopher F. Chabris 掲載誌: Nature Human Behaviour(2026年10月5日公開) DOI: 10.1038/s41562-026-02603-4 URL: https://www.nature.com/articles/s41562-026-02603-4
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