老化研究では、分裂を止めたまま体内に居座り、炎症を起こす物質を出し続ける「老化細胞」が注目されています。この老化細胞を選んで取り除く薬(セノリティクス)が、人の病気の進行を実際に食い止められるのかは、これまでほとんど確かめられていませんでした。2026年10月、Nature Metabolism に、線維化の進んだ脂肪肝炎の患者を対象にした二重盲検ランダム化比較試験の結果が報告されました。
研究の概要
対象は、肝生検で線維化を伴う「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」と診断された31人です。年齢の中央値は56歳で、約6割が2型糖尿病を合併していました。MASH は、肥満や糖尿病を背景に肝臓に脂肪がたまり、炎症と線維化が進む病気で、肝硬変や肝がんにつながることがあります。
研究はオランダのアムステルダム大学医療センターで行われました。参加者は2群に分けられ、一方は抗がん剤としても使われるダサチニブ(1日100mg)と、植物由来のフラボノイドであるケルセチン(1日1,000mg)の組み合わせを、もう一方は偽薬を服用しました。飲み方は間欠的で、「週3日を3週間続け、4週間休む」という7週間の周期を3回、合計21週間繰り返しています。老化細胞は分裂せず、できるまでに時間がかかるため、毎日飲み続けなくてもよいと考えられています。
21週間後に再び肝生検を行い、病理医が治療内容を知らない状態で評価しました。主な結果は次のとおりです。
- 線維化が1段階以上改善し、脂肪肝炎が悪化しなかった人は、薬の群で47%(17人中8人)、偽薬群で7%(14人中1人)でした
- 脂肪肝炎そのものが消えた人は、薬の群で53%、偽薬群で7%でした
- 肝臓の細胞を1つずつ調べる解析では、薬の群で老化に関わる遺伝子群と線維化に関わる遺伝子群の働きが弱まり、線維化を起こす星細胞や炎症細胞の割合が減っていました
一方で、副作用は薬の群で82%、偽薬群で43%と多く報告されました。最も多かったのは頭痛で、ほとんどが軽度から中等度で自然に治まっています。血小板数は偽薬群より低下しました。また、血液検査やエラストグラフィなど体の外から測る線維化の指標には、群間で差が見られませんでした。
著者らは、参加者が少なく信頼区間が広いこと、脱落者の扱い方によっては有意差が消える場合があることを挙げ、この結果は「仮説を生み出す段階」のものであり、大規模な試験での確認が必要だと述べています。
日常生活への示唆
この研究は、老化の仕組みの一つである細胞老化を狙った治療が、人の臓器の病気を改善しうることを、肝生検という確かな指標で示した点に意義があります。ただし、ダサチニブは医師の管理下で使う処方薬であり、副作用もあります。ケルセチンのサプリメントだけで同じ効果が得られることは示されていません。自己判断で試すことは避けてください。
私たちが今日からできることは、まず自分の肝臓の状態を知ることです。
- 健診の ALT・AST・γ-GTP や腹部エコーで脂肪肝を指摘されたら、放置せずに医療機関に相談しましょう
- 糖尿病や肥満がある方は、肝臓の線維化の評価(FIB-4 指数など)を主治医に尋ねてみましょう
- 減量、運動、節酒といった基本的な生活習慣の見直しは、脂肪肝の予防と改善の土台になります
「老化そのものを治療する」という発想は、将来、生活習慣病の治療を変えるかもしれません。今回の試験は、その入口に立った研究と言えます。
出典
論文タイトル: Senolytics dasatinib and quercetin in metabolic dysfunction-associated steatohepatitis: a proof-of-principle randomized, controlled trial 著者: Mijra Koning, Artemiy Kovynev, Marcos F. Fondevila, Eliza J. M. Ruhe ほか(計35名) 掲載誌: Nature Metabolism(2026年10月1日公開) DOI: 10.1038/s42255-026-01643-4 URL: https://www.nature.com/articles/s42255-026-01643-4 臨床試験登録: ClinicalTrials.gov NCT05506488
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