血液を1本採るだけで多くの種類のがんの兆候を拾う「多がん早期検出(MCED)検査」は、がん検診を大きく変える可能性があるとして注目されてきました。その実力を、英国の国民保健サービス(NHS)の中で14万人規模のランダム化比較試験として確かめたのが「NHS-Galleri試験」です。2026年9月、検査性能をまとめた論文がNature Medicineに掲載されました。
研究の概要
試験には50〜77歳の142,250人が参加し、通常のケアに加えてMCED検査を受ける群と、採血だけして検体を保管する対照群に1対1で振り分けられました。検査は1年ごとに3回行われています。使われたのはGRAIL社の「Galleri」という検査で、血液中に漂う腫瘍由来DNAのメチル化パターンを読み取り、がんの信号の有無と、その発生部位の予測を返します。陽性の人は、予測部位をもとにNHSの通常の緊急紹介ルートで精密検査を受けました。
まず押さえておきたいのは、試験の主要評価項目だった「進行がん(ステージIII/IV)と診断される人の減少」は、別の論文で達成されなかったと報告されている点です。今回の論文は、副次評価項目である検査性能を記述的にまとめたものです。
主な結果は次のとおりです。
- 陽性になった人は1回目が1.03%、2回目が0.80%、3回目が0.90%でした
- 陽性者のうち実際にがんが見つかった割合(陽性的中率)は、1回目58.0%、2回目50.4%、3回目45.8%でした
- 特異度は99.5〜99.6%で、がんのない人を誤って陽性にする割合は0.4〜0.5%にとどまりました
- 発生部位の予測は、上位2候補までに正解が含まれる割合が91〜94%でした
- 3回の合計で937人のがんが検査で見つかり、そのうち68.3%はステージI〜IIIでした
一方で、感度には大きな限界があります。12か月以内にがんと診断された人のうち検査が陽性だった割合は、1回目37.2%、2回目以降は約27%でした。死亡の多い12種類のがん(膵臓、肺、大腸、卵巣、肝臓・胆管など)に絞ると47.6〜63.4%に上がりますが、がん種による差は大きく、肝臓・胆管がんの88.9%に対して悪性黒色腫は2.5%でした。検査で見逃されたがんで多かったのは、前立腺がん、乳がん、悪性黒色腫です。
著者らは、症状をもとに行われる英国のがん疑い緊急紹介でがんが見つかる割合は約6%であり、それに比べて陽性的中率52%(3回の合計)は高いと述べています。また、検査で見つかったがんの72.8%は、乳がん・子宮頸がん・大腸がんという英国で検診がある種類以外のものでした。
日常生活への示唆
この結果から読み取れるのは、MCED検査は「陽性ならかなりの確率でがんがあり、場所の見当もつく」一方で、「陰性でもがんがないとは言えない」検査だということです。論文自身も、陰性の結果を特定のがんの否定と解釈すべきではなく、既存の検診を置き換えるものではなく補うものだと明記しています。
そのうえで、私たちが明日からできることを整理します。
- 市区町村や職場の大腸がん・乳がん・子宮頸がん・肺がん検診は、血液検査があっても引き続き受けてください
- 自費でMCED検査を検討する場合は、陰性でも安心材料にはならないこと、死亡を減らす効果はまだ確認されていないことを理解したうえで判断してください
- 喫煙は検出率を押し上げるほどがんのリスクを高めます。禁煙は、どんな検査よりも確実な予防策です
死亡率への影響や過剰診断の評価は、今後の論文で報告される予定です。血液1本のがん検診が本当に命を救うのかどうか、続報を待つ必要があります。
出典
論文タイトル: Performance of a multi-cancer early detection test in the randomized controlled NHS-Galleri trial 著者: Richard D Neal, Saoirse Dolly, Peter Johnson, Helen Jones, Sir Harpal Kumar, Lennard Y W Lee ほか(計13名) 掲載誌: Nature Medicine(2026年9月22日オンライン公開) DOI: 10.1038/s41591-026-04652-8 URL: https://www.nature.com/articles/s41591-026-04652-8
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