「中間評価を外部に頼みたいが、仕様書に何を書けばよいのかわからない」「前回の計画策定は委託先に任せきりで、中身を説明できる職員がいない」——第3期データヘルス計画の折り返しを迎え、健康保険組合や市町村国保の担当者から、このような相談が増えています。
結論から言うと、中間評価の委託で成果を左右するのは、委託先の規模や価格よりも、発注する側が次の3点を事前に決めているかどうかです。
- 委託する範囲:データの集計・図表作成だけを頼むのか、評価結果の解釈や後半3年間の事業見直しの提案まで頼むのか
- 仕様書の中身:提供するデータ、成果物、スケジュール、進捗報告、個人情報の扱いを具体的に書いているか
- 判断の主体:目標の再設定や事業の見直しを最終的に決めるのは保険者自身であることを、体制として確保しているか
本記事では、厚生労働省の手引き、個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンス、自治体が公開している中間評価業務の仕様書をもとに、発注の実務を整理します。中間評価がなぜ形骸化しやすいのかという全体像は、別記事「データヘルス計画 中間評価【第3期】形骸化する3パターンと2026年度の打ち手」で扱っています。
中間評価で何をするのか——手引きが示す3つの手順
委託範囲を決める前に、中間評価でやるべき作業を確認しておきます。厚生労働省保険局と健康保険組合連合会が2023年6月に公表した「データヘルス計画作成の手引き(第3期改訂版)」によると、第3期データヘルス計画の期間は令和6年度から令和11年度までの6年間です。令和6〜8年度を前期、令和9〜11年度を後期に区分し、前期の終了時に中間評価を実施することとされています。2026年度(令和8年度)は、ちょうど前期の最終年度にあたります。
同手引きは、中間評価の主な手順を次の3つに整理しています。
| 手順 | 主な内容 |
|---|---|
| 1 保健事業の全体構造の確認 | 健康課題の確認、保健事業全体の目的・目標の再認識、方向性の確認 |
| 2 保健事業の経年での進捗把握・評価 | 各保健事業の過去3年間の実績値の確認、目標達成度の評価 |
| 3 期の後半における事業計画の見直し | 実施方法(プロセス)・実施体制(ストラクチャー)の見直し、評価指標・目標値の再設定 |
手引きは、中間評価の時点で健康課題の分析からやり直さなければならないわけではない、とも明記しています。中間評価は計画を一から作り直す作業ではなく、期初に抽出した課題に対して事業が進んでいるかを確かめ、後半の打ち手を調整する作業です。この理解があるかどうかで、委託の範囲と費用は大きく変わります。
また手引きは、自組合の経年変化や目標値に対する達成度だけでなく、健保組合の「共通の評価指標」をもとに他の健保組合と比べることで、実施率や成果の水準を客観的に評価できるとしています。比較に使う指標を何にするかは、仕様書の段階で決めておくべき事項の1つです。
委託する範囲を決める——「作業」と「判断」を分ける
厚生労働省の「データヘルス計画作成の手引き」(2014年12月)の第4章「委託事業者の活用時の留意点」は、計画策定時の外部委託について、現在の中間評価にもそのまま当てはまる整理をしています。同章はデータ分析の委託について、「データ集計および図表作成」のみの委託なのか、「事業の設計(ストーリーの作成)」を含めた委託なのかを意識するよう求めています。一方で、目標・評価指標の設定や事業の評価・改善策の検討は、基本的には健保組合自身が行い、必要に応じて委託事業者の支援を得る、という位置づけです。
中間評価に当てはめると、業務は次のように切り分けると整理しやすくなります。
| 業務 | 委託しやすい部分 | 保険者に残すべき部分 |
|---|---|---|
| データの準備・集計 | レセプト・健診データの集計、過去3年間の実績値の算出、図表作成 | 提供するデータの範囲と定義の決定 |
| 進捗の評価 | 目標値との差の整理、共通の評価指標を使った他保険者との比較 | 目標と実績が乖離した背景の確認(現場・事業主へのヒアリングを含む) |
| 事業の見直し | 他保険者の事例や実施方法の選択肢の提示 | 事業の継続・変更・廃止と、目標値の再設定の決定 |
| 報告書・会議資料 | 報告書の素案、概要版、会議用資料の作成 | 組合会・運営協議会等での説明と最終的な記載内容の確定 |
同章は、外部委託で起こりがちな問題として、データ分析から計画策定までをすべて外部に任せた結果、既存の取組や資源を十分に活用できなかった例、分析に多額の費用をかけた結果、事業の実施に費用を配分できなかった例を挙げています。中間評価でも、分析を厚くするほど良い評価になるとは限りません。後半3年間の事業費とのバランスを見て、分析の深さを決めることが大切です。
仕様書に書くべき項目——公開仕様書の実例から
第3期改訂版の手引きは、委託契約書や仕様書のひな型を持っておくことが重要であり、委託の目的、進捗管理、評価といった要素を入れておくことが有用だとしています。具体的な書き方の参考になるのが、自治体が入札・契約手続きのために公開している仕様書です。たとえば大阪府豊中市が公開している「豊中市国民健康保険第3期データヘルス計画及び第4期特定健康診査等実施計画 中間評価業務委託仕様書」には、次の項目が含まれています。
- 目的:計画に基づく各事業の実施状況を振り返って中間評価を行い、令和9年度(2027年度)以降の保健事業の検討を支援すること
- 委託期間:契約締結日から令和9年(2027年)3月31日まで
- 提供するデータ:レセプトデータ(直近3か年度分)、被保険者データ、特定健診データ(直近3か年度分)、KDB帳票データ、計画書本体など。ファイルの種類と提供時期は別紙のインターフェース仕様書で指定
- 委託内容:国の手引きや最新のガイドラインに沿った現状分析(必須の分析項目を列挙)、分析結果の報告、審議会等の説明資料の作成(校正回数の目安つき)、スケジュール管理
- 進捗報告:月1回以上の報告。審議会への草案・原案の諮問時期も明記
- 納品物:業務計画書、現状分析・課題抽出報告書、統計資料・図表、中間評価の素案・完成版、概要版、会議説明資料
- データの授受と廃棄:授受の方法は協議で決め、契約完了後に廃棄完了の報告書を提出
- 個人情報・再委託・権利:プライバシーマークまたはISMSの保有、原則として再委託を禁止、成果物とデータの知的財産権は発注者に帰属
- 国等の指標変更への対応:国や都道府県、国保連合会が指標等を示した場合の追加分析・修正への対応
市町村国保の仕様書であるため、KDB帳票など健保組合には当てはまらない項目もありますが、構成はそのまま参考になります。健保組合が仕様書を作る場合は、上記に加えて次の点を書いておくと、納品後の手戻りを減らせます。
- 評価の対象とする事業と、事業ごとのアウトカム指標・アウトプット指標(計画書のどの表に対応するか)
- 比較に使う指標(共通の評価指標を使うか、自組合独自の指標か)と、比較対象の範囲
- データヘルス・ポータルサイトへの入力を保険者が行うのか、入力用の整理まで委託するのか
- 目標と実績の乖離について、委託先に求めるのは「要因の仮説の提示」までか、事業主へのヒアリングの実施まで含むのか
- 集計に使ったプログラムや集計表の扱い(次回の評価で保険者が再利用できる形で納品するか)
最後の項目は見落とされがちです。期末評価や第4期の計画策定でも同じ集計を繰り返すため、集計の定義と手順が保険者の手元に残っているかどうかで、次の委託の自由度が変わります。
個人情報の取扱いと再委託——契約で押さえる点
中間評価では、レセプトや健診結果といった健康・医療に関する個人情報を含むデータを委託先に渡すことになります。個人情報保護委員会と厚生労働省の「健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(2017年4月策定、2026年4月一部改正)は、健保組合等が個人データの取扱いを委託する場合、「適切な委託先の選定」「安全管理措置の遵守事項を含む委託契約の締結」「委託先における個人データ取扱状況の把握」によって、委託先を監督しなければならないとしています。
同ガイダンスが委託時の留意事項として挙げているのは、主に次の点です。
- 委託先の体制や規程等を確認し、安全管理措置が法の求める水準と同様であることを評価したうえで選定する
- 契約に、委託する業務の内容、委託先、個人情報の適切な取扱いに関する内容(委託終了後の取扱いを含む)を盛り込む
- 委託先が個人情報を適切に取り扱っていることを定期的に確認する
- 提供する情報は、本来必要とされる範囲に限る
- 健保組合等と直接の契約関係を伴わない個人情報の処理の再委託は行わない。再委託の可否や、委託元への文書による事前報告または承認について、契約上明記する
2014年の手引き第4章も、個人が特定できる情報は必要以上に渡さないこと、保管方法・体制、分析実施後の取扱い、委託事業者に課す守秘義務などのルールを明確にすることを求めています。中間評価の集計は、多くの場合、氏名などを外したデータで足ります。どの項目を渡し、どの項目を渡さないかを、仕様書の「提供するデータ」の欄で具体的に決めておくのが確実です。
委託先の選び方と、よくある落とし穴
2014年の手引き第4章は、委託先の選定基準を「ストラクチャー(人員体制、受託実績、情報管理の体制など)」「プロセス(作業の進め方・スケジュールが明確か、保険者・事業主との打合せの機会を設定しているかなど)」「アウトプット・アウトカム(分析結果を専門職以外にも理解できるよう説明できるか、評価可能な定量指標を設定できるか、見直し後の計画を実現可能なものにできるかなど)」の3つの観点で例示しています。そのうえで、選定時のチェックポイントは、事業者と締結する契約書内に極力盛り込むことが望ましいとしています。
第3期改訂版の手引きは、民間事業者の特長を捉えるポイントとして、同様の業務の実績、有している人員、ノウハウ・ツールを挙げ、実績は業務の規模と成果を定量的に確認するよう求めています。中間評価の委託先を比べる際は、提案書の分析メニューの多さよりも、次の点を確かめるのが実務的です。
- 過去の中間評価・期末評価で、目標と実績の乖離をどう説明し、事業の見直しにどうつなげたか(成果物の例で確認する)
- 分析の担当者が、保険者・事業主との打合せに同席するか
- 集計の定義(分母・分子、対象年度)を文書で示せるか
落とし穴として多いのは、委託先が実施しやすい事業に合わせて課題や見直し案が組み立てられてしまうことです。2014年の手引き第4章も、重症化予防対策のみに特化した計画を策定した結果、本来必要なポピュレーションアプローチ等の対策が不十分になった例を挙げています。事業の継続・変更・廃止の判断は保険者が行うという前提を、仕様書と打合せの両方で明確にしておくことが重要です。
第3期改訂版の手引きは、委託を通じて知見や課題を組合内に蓄積することも求めています。打合せに複数の職員が同席する、異動時の引き継ぎ記録を作るといった工夫が例示されています。中間評価は、期末評価と次期計画の策定に向けて、保険者の中に評価の知見を残す機会でもあると言えます。
キバロクで支援できること
キバロク株式会社では、医師・医学博士でありデータサイエンティストでもある代表の市川太祐が、データヘルス計画の中間評価を発注する側の立場で支援しています。具体的には、委託範囲の切り分けと仕様書の作成支援、委託先の提案内容の確認、評価指標と集計定義の整理、委託先から納品された分析結果の妥当性の確認、組合会・委員会向けの説明資料の検討といった内容です。
中間評価の分析そのものを受託するのではなく、保険者の側に立って「何を頼み、何を自分たちで決めるか」を整理する役割を想定しています。「仕様書の作り方から相談したい」という段階からのご相談も承ります。
中間評価の発注準備を支援します
委託範囲の切り分け、仕様書の作成、委託先の提案や納品物の確認まで、医師・医学博士×データサイエンティストが保険者の側に立って支援します。まずは30分の無料相談で、現在の状況を整理しませんか。
無料相談を予約する参考資料
- データヘルス計画作成の手引き(第3期改訂版)(厚生労働省保険局・健康保険組合連合会、2023年6月):https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001223896.pdf
- データヘルス計画作成の手引き 第4章 委託事業者の活用時の留意点(厚生労働省、2014年12月):https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226045.pdf
- 健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省、2017年4月策定、2026年4月一部改正):https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/kenpokumiai_guidance/
- 豊中市国民健康保険第3期データヘルス計画及び第4期特定健康診査等実施計画 中間評価業務委託仕様書(大阪府豊中市、令和8年度):https://www.city.toyonaka.osaka.jp/jigyosya/keiyaku/nyusatsu_kekka_/R8/kenkoiryo/datahealthtyuukan.files/siyousho_datahealthtyuukannhyouka.pdf
- 健康保険組合のデータヘルス計画作成の手引き 掲載ページ(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061273.html