高齢者保健事業データヘルス計画の中間評価

2026年3月公表「手引き(案)」の要点と、広域連合が今すべき準備

データヘルス計画 高齢者保健事業 中間評価

2026年3月、厚生労働省のウェブサイトに「高齢者保健事業の実施計画(データヘルス計画)の中間評価に向けた手引き(案)」が公表されました。第3期データヘルス計画の折り返し地点にあたる令和8年度、全国47の後期高齢者医療広域連合が中間評価を行うことになっており、その実務指針となる資料です。

本記事では、この手引き(案)が何を求めているのか、そして現場にとって何が実質的に変わるのかを整理します。

この資料の位置づけ

まず押さえておきたいのは、ここで言う「データヘルス計画」が後期高齢者医療広域連合の高齢者保健事業実施計画を指すという点です。国民健康保険の「国保データヘルス計画」や、健康保険組合・協会けんぽが策定する保健事業実施計画とは別のものですので、混同しないよう注意が必要です。

資料は厚生労働省の委託事業として株式会社三菱総合研究所 医療・介護DX本部がとりまとめたもので、令和7年度に実施された47広域連合へのウェブアンケートと、広域連合6団体・市町村10団体へのヒアリング結果を土台にしています。既存の「データヘルス計画策定の手引き」を補足する位置づけであり、章立ては次の3部構成です。

なぜ「中間評価」なのか

データヘルス計画は1期6年の計画です。単年度ごとの事業評価は既に毎年行われていますので、「毎年評価しているのに、なぜ改めて中間評価が必要なのか」という疑問は当然出てきます。

手引き(案)はこの点について、中間評価は毎年度の事業評価とは目的が異なると明確に線を引いています。毎年度の評価が個々の事業の進捗確認であるのに対し、中間評価は健康課題が解決に向かっているかを期の途中で確認し、保健事業全体を見直す機会だという整理です。

計画・評価・改善(Plan、Check、Action)は広域連合が担い、実際の事業実施(Do)は委託を受けた市町村が担うという役割分担のもとでは、個別事業の数字を追うだけでは全体像が見えにくくなります。中間評価は、その全体像に立ち返る場として設計されています。

中間評価の4つのSTEP

STEP1:保健事業の全体構造の確認

期初に抽出した健康課題を振り返り、事業全体の目的・目標に沿って進んでいるかを俯瞰します。ここで興味深いのは、「自分たちが目指す地域のあり方や住民の姿とはどのようなものだったか」という広域連合としてのビジョンを再確認する機会にしてよい、と踏み込んでいる点です。指標の点検にとどまらない使い方を促しています。

STEP2:保健事業の進捗把握・評価

定量・定性の両面から評価します。定量面では過去3年間(令和5〜7年度)の実績値を目標値と突き合わせ、達成度を確認します。令和7年度の実績値が中間評価時点で確定していない場合は、暫定値での評価も認められています。また、自広域連合の経年変化だけでなく、共通評価指標を用いて全国平均や近隣広域連合と比較することも推奨されています。

定性面では、ストラクチャー(実施体制)とプロセス(実施方法)を評価します。アウトカムの中には3年では効果が見えにくい指標もあるため、体制づくりや支援の工夫といった「足元の成果」を拾う意義が強調されています。

STEP3:後半3年における事業計画の見直し

実施方法・実施体制の見直し、評価指標・目標値の再設定、そして計画への記載もれや誤りの修正という3つの切り口が示されています。期初に目標を設定できていなかった事業について、中間評価の機会に設定してよいという記述もあり、現実的な運用が意識されています。

STEP4:市町村等に対するフィードバック

市町村および都道府県・国保連合会・支援評価委員会などの関係者に評価結果をフィードバックします。単に結果を配るのではなく、改善を要する点と今後の事業の方向性まで含めて共有することが重要とされています。

最大の実務的変更点——ハイリスク者割合の分母見直し

今回の手引き(案)で最も影響が大きいのは、共通評価指標の算出方法が変更された点です。

これまでハイリスク者割合は、分母を被保険者数として算出していました。しかしこの方法では、健診受診率の影響を強く受けます。受診率が低ければリスクを持つ人を把握しきれず、逆に受診率が上がるとハイリスク者が多く抽出されるため、割合が悪化したように見えてしまいます。現場から「数字の解釈が難しい」「経年での評価が難しい」という声が多く寄せられていました。

そこで、中間評価を機に分母が次のように見直されました。

10指標のうち8指標で分母が変わりました。うち7指標が健診受診者数、糖尿病等治療中断者だけは健診未受診者を対象とする事業の性質上、健診対象者数が分母となります。多剤と健康状態不明者の2指標は被保険者数のまま据え置かれました。

分母を「保健事業の対象者」に揃えることで、事業の進捗や効果をより素直に読めるようにする、というのが狙いです。後期高齢者の質問票の使用状況が89.5%(令和7年度一体的実施実施状況調査)に達していることも、健診起点での整理を後押ししています。

ただし手引き(案)は、従来の被保険者数を分母とする指標にも「広域連合全体でリスクを有する人がどの程度いるか」を把握する意義があるとし、併用も考えられると述べています。さらに、割合だけでなくハイリスク者数の実数で見る視点も重要だと付け加えています。第4期データヘルス計画では、見直し後の算出方法で評価していくことが想定されています。

なお、経年比較の観点では注意が必要です。分母が変わる以上、令和5〜7年度の実績値と令和8年度以降の数値を単純に並べることはできません。中間評価にあたっては、どの算出方法による数値なのかを明示しておく実務対応が求められます。

全国アンケートが映した「現在地」

第3章に収録された47広域連合へのウェブアンケート(2025年9月8日〜19日実施)は、現場の到達点と課題を率直に示しています。

計画そのものの効果については、肯定的な回答が目立ちます。第3期計画を通じて「市町村を含めたおおむねすべての関係者間で課題意識が共有されている」と答えた広域連合は57.4%、市町村との連携が「非常に円滑になった」は59.6%、「多くの市町村が広域連合の計画に基づき共通評価指標の目標達成を目指している」は61.7%でした。令和5年度の事業評価では、76.6%が「評価指標等を用いて全ての事業を評価した」と回答しています。

一方で、ツールの活用には差が出ています。進捗管理シートを活用しているのは24広域連合(51.1%)とほぼ半数にとどまり、振り返りシートに至っては9広域連合(19.1%)だけでした。手引き(案)はこれらのシートについて、期末評価や次期計画策定に役立つだけでなく、人事異動時の引継ぎ資料としても有用だと指摘しています。活用が広がっていない現状は、裏を返せば伸びしろとも言えます。

市町村が抱える課題として広域連合が挙げたものでは、「医療専門職の確保」が47広域連合すべてで挙げられ、突出しています。次いで「他の部課室の事業等の活用・連携」が43、「医療機関との連携・調整」が39でした。マンパワー不足は全国共通の構造的課題だと確認できます。

中間評価そのものへの不安も明確です。最も多かったのは「計画で設定した評価指標・目標値が妥当なのか懸念がある」で41広域連合。次いで「評価方法(用いるデータ等)が妥当なのか懸念がある」が25、「評価後、計画及び保健事業をどう見直すべきか分からない」が19となっています。指標の妥当性への懸念が突出している点は、今回の分母見直しが実施された背景としても理解できます。

好事例から読み取れる共通項

第2章は広域連合6団体・市町村10団体のヒアリングをもとにした事例集です。個別事例は多岐にわたりますが、共通するエッセンスは絞り込めます。

広域連合——市町村単独では届かない領域を担う

三師会や栄養士会・歯科衛生士会といった職能団体への働きかけ、市町村と専門機関のマッチング会議の企画、大学との共同分析、県保健所と連携した圏域単位の連絡会などが挙げられています。栃木広域が県全体で低栄養の取組が少ないという課題に対し、広域連合から栄養士会に委託してノウハウを蓄積した事例は、広域連合ならではの役割を体現しています。

研修会・意見交換会では、グループ分けの工夫が繰り返し挙げられました。被保険者数の規模別、保健医療圏域別に加え、委託か直営か、事務職か専門職かといった立場による区分です。あえて小規模単位で開催して市町村間の対話を活発化させる工夫もあり、すぐに取り入れやすい示唆と言えます。

市町村——限られた人員をどう活かすか

次の5つのポイントが抽出されています。

  1. ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの連携
  2. 複合的なハイリスクアプローチの取組
  3. 庁内連携強化(特に大規模市町村)
  4. 外部リソースや既存事業の有効活用(特に小規模市町村)
  5. 様式やツール等の工夫

とりわけ注目したいのが最初の2つです。健診未受診者が多い状況では、通いの場でハイリスク者を把握して個別訪問につなぐ流れが効率的な対象者把握の手段になります。逆に、ハイリスクアプローチで関わった人を通いの場につなげば、社会参加の促進と支援終了後のフォローアップを兼ねられます。秋田市が作成した「事業連携フローチャート」は、フレイル測定会の結果からハイリスク訪問につなぐ判定基準と課をまたぐ手順を1枚に落とし込んだもので、この考え方を運用可能な形にした好例です。

複合的アプローチも実務的な意味が大きい取組です。後期高齢者は複数のリスクを同時に持つことが多く、低栄養と口腔、口腔と糖尿病といった組み合わせで重複して抽出されます。砺波市のように保健師と歯科衛生士・栄養士が同行訪問すれば、専門職の稼働を節約できるうえ、高齢者側の負担も減り、密接に関連するリスクへ包括的に介入できます。人手不足への現実的な回答のひとつです。

なお、庁内連携について手引き(案)は、保健師の地区担当制のような縦割りや、保健衛生部門への業務一極集中があると連携が難しくなると率直に指摘しています。役割分担の明確化と、ガントチャートのような形での見える化がポイントとされました。

第4期、さらにその先へ

手引き(案)は最後に、中間評価の際に他の関連計画の動向も確認するよう促しています。健康増進法に基づく基本方針、都道府県健康増進計画、都道府県医療費適正化計画、都道府県介護保険事業支援計画、国保データヘルス計画などです。

なかでも重視されているのが、2027年度から始まる第10期介護保険事業(支援)計画です。通いの場を含む介護予防・健康づくりや介護予防・日常生活支援総合事業に関する内容について、都道府県・市町村と前広に意見交換し、必要に応じてデータヘルス計画に反映すべきとされています。一体的実施が高齢者保健事業の中心を担う以上、介護側の計画と歩調を合わせられるかが効果を左右するという判断です。

実務担当者が今から着手できること

中間評価は令和8年度に実施されます。この手引き(案)を踏まえると、事前に着手できることは整理できます。

  1. 進捗管理シート・振り返りシートの整備:活用率がそれぞれ51.1%、19.1%にとどまる現状は、多くの広域連合にとって未着手の領域です。中間評価の直前にゼロから作るより、毎年度末や年度当初の実績把握のタイミングで記録を積み上げておくほうが確実です
  2. 共通評価指標の再計算:分母の変更により、過去実績を新しい算出方法で遡って計算し直す作業が発生します。健診受診者数・健診対象者数を分母とした値を準備しておけば、中間評価時の比較がしやすくなります
  3. 既存データの棚卸し:市町村から毎年提出される一体的実施計画書・実績報告書や、令和6年度から国が提供している集約ツールのレポートを活用し、効率的に評価することが肝要とされています。新たな調査を起こす前に、手元にあるデータで何がわかるかを確認しましょう
  4. 解釈に迷う指標の相談先の確保:高齢化の影響で数値上は悪化して見えるケースなど、定量評価だけでは判断しにくい場面があります。国保連の支援・評価委員会や大学・研究機関への相談は、疑問点を明確にしたうえで臨むことが望ましいとされています

まとめ

中間評価は、過去3年間を振り返って次の3年間につなげる機会です。指標の点検作業として処理してしまうこともできますが、手引き(案)が繰り返し促しているのは、健康課題と事業の対応関係を見直し、体制そのものを組み替える契機として使うという姿勢です。

とりわけ今回は共通評価指標の分母が変わるため、過去実績の再計算と数値の解釈が実務上の山場になります。データの再集計と、その結果をどう読むかという医学的・疫学的な解釈は、担当者だけで抱え込むと負担が大きい領域です。

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